前回、小規模専門店による「逆ランチェスター」について書いたが、ファッション業界は「逆ランチェスター」に満ち溢れている。

ランチェスターの法則とは、

大手は物量による追随主義
小規模企業は一点突破主義

である。

逆ランチェスターとはこれと逆を行い、必ず負けるための手法である。

小規模なのに追随主義、これが小規模専門店の逆ランチェスターである。

小規模専門店のオーナーなりバイヤーなりが、自店の客層と照らし合わせたり、自店のMD上必要だと判断した上で、「伊勢丹新宿にも展開しているブランドを仕入れよう」と考えるならこれは逆ランチェスターではない。
小規模専門店が何の考えもなしに「伊勢丹新宿が展開しているからうちにも仕入れよう。もしかしたら売れるかもしれない」というのが、大手への追随となる逆ランチェスターだといえる。

しかし、こういう思考は小規模専門店ばかりではない。

例えば「ユニクロでバカ売れしたあの商品に使われているのと同じ素材をください」と飛び込んでくる大手アパレルの経営陣なんかもれっきとした「逆ランチェスター」な人である。

この大手アパレルは百貨店、ファッションビルでのブランド展開を主軸としている。
もちろん大手なので郊外型ショッピングセンターにもブランド展開しているが、主軸は百貨店・ファッションビルである。
当然、ユニクロとは価格帯、顧客層が異なる。

単純にいえば、ユニクロより商品価格は高い。
それを買う顧客層はユニクロとは異なる層が多い。

で、なぜ「ユニクロで何百万枚も売れたのだから、うちが同じ素材を使えば少なくとも5万枚くらいは売れるかもしれない」とそんな考え方ができるのか。
価格帯と顧客層が異なれば同じ素材を使っても同じように売れるとは限らない。
また素材は同じかもしれないが、商品デザインが異なれば同じように売れるはずがない。

どうしてこんな簡単なことがわからないのか。
だからアパレルは衰退産業で、産業間競争に敗れて優秀な人材を他産業に奪われているといわれるのである。
こんな人が経営陣に食い込めるくらいのレベルである。
だからこの会社は大幅減益をたたき出せるのである。

まだほかにもある。

衣料品売上高ではユニクロに及ばないのに、ユニクロの後追いをする大手総合スーパーも同様である。
ウルトラライトダウンが売れたら軽量ダウン、ヒートテックが売れたら保温肌着、カシミヤを発売したら1年後にカシミヤ、990円ジーンズを発売したら980円ジーンズ。

だから大手総合スーパーの衣料品部門は不振なのである。

弱者が強者の後追いをして勝てるはずがない。

こんな風に衣料品業界には安易な「逆ランチェスター」が満ち溢れている。
だから衣料品業界は衰退業界と言われるのだろう。

98年のユニクロフリースブームのときには、その後追いで百貨店アパレルまでが2900円のフリースジャケットを、お得意のクイックレスポンスシステム(笑)を生かして急遽製造したこともある。
百貨店顧客が2900円のフリースジャケットを百貨店で買いたいと思うのかどうかすら判断できないということだろう。

大手アパレル各社が不振にあえいでいるが、それは当然ではないか。

とはいえ、今後もアパレル業界の「逆ランチェスター」体質は早々に変わることはないだろうから(なぜなら、そういう幹部があと10年か20年くらいは在職するから)、ますます衰退が進むのではないか。


 



ヨーロッパから民主主義が消える (PHP新書)
川口マーン惠美
PHP研究所
2015-12-16