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南充浩 オフィシャルブログ

珍妙なフォーマル、ビジネススタイル

2016年4月12日 考察 0

 今日はお気軽に。

2000年代半ばまで日本のストリートファッションは世界のトレンドを牽引していた。
今でもそういう傾向は強いのかもしれないが、90年代後半に比べるとそのパワーは落ちているのではないかと個人的には感じる。

ストリートファッションはすなわちカジュアルファッションである。
なぜ、洋服文化歴の浅い日本がカジュアルファッションで世界の最先端の一つとなることができたのか。
これについてはこんな仮説を耳にしたことがある。誰の発言だったかは申し訳ないが覚えていない。

「洋装歴の浅い日本人は、欧州で培われたセオリーを身に着けていない。身に着けていないからこそ斬新なコーディネイトが生まれた」と。

フォーマル、ビジネススタイルについては欧州、その派生国家である米国にはかなり詳細で煩雑な決まりがある。欧米人は小さいころからこれをある程度身に着けるわけだが、日本人でそれを身に着けている人はまことに少ない。多くは「マイルール」に従ってちょっとおかしな着こなしを続けている。
そういう基礎のない日本人だからこそ、斬新なカジュアルコーディネイトができたということである。

ちょうど欧米人が着物のルールを知らずに、よく言えば斬新、悪く言えばメチャクチャな着こなしをするのと同じと考えられる。

フォーマル、ビジネススタイルは明確なドレスコードが存在するが、カジュアルはない。
むしろさまざまなジャンルをミックスした方がオシャレに見える。
カジュアルで、スポーツとかミリタリーとかマリンとか一つのテイストのアイテムで統一している人がオシャレに見えるだろうか。スポーツで統一されていたら競技中かトレーニング中の選手みたいだし、ミリタリーで統一されていたら単なる軍人である。

さまざまなテイストを自身のセンスでバランスよくミックスするのがカジュアルの醍醐味ともいえる。
それ故に細かな規則や規範など知らない方が大胆で斬新なミックスが可能になる。

ところが、日本人のフォーマル、ビジネススタイルは90年代よりはだいぶとマシになったとはいうものの極めて珍妙なマイルールや珍説に満ち溢れている。

先日、古くからの知り合いのデザイナー氏と葬儀のときの服装について笑い話をした。

通常の葬儀であるなら、黒いスーツ、もしくはダークスーツで十分である。
筆者もデザイナー氏も黒いシングルブレストスーツで親族の葬儀に出席したことが何度もある。
欧米のルールを調べてみると、黒でなくても無地のチャコールグレースーツでも良いそうである。

今では黒いシングルスーツでも何も言われなくなったが、ほんの10年とか15年くらい前までは、親族の誰かが必ず「シングルで葬儀はあかんやろ、なんでダブルじゃないの?」と意味の分からない忠告(?)をしてくることが常だった。

逆になぜダブルなのか?意味不明である。

彼らの頭の中には葬儀=略礼服という図式が刷り込まれているのである。
筆者より3歳年下だった亡くなった弟ですら「なぜ略礼服を着ていないのか?」と意味不明の質問をしてくることがあった。

逆に「なぜ略礼服たる珍妙な物を着なくてはならないのか?」である。

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(珍妙なるスタイルの略礼服)

このブログの読者にはご存じの方々も多いかもしれないが、略礼服なる珍妙なスーツは日本の紳士服メーカーが勝手に作った物なのである。
欧米の正式なドレスコードにあのダブルブレストの略礼服なるものは存在していない。

よほどの正装を求められない限り、黒無地、もしくは無地チャコールグレーのスーツで十分なのである。
この場合、ネクタイは黒無地である。

一方、結婚式に呼ばれた場合も同じスーツで良い。
この場合、ネクタイはシルバー無地、もしくはシルバーの小紋柄である。

略礼服にセットされている白無地ネクタイなんて欧米には存在しない。

礼服、スーツ類のジャケットの袖丈に対する認識も意味不明だ。

ジャケットの袖丈は、手首くらいが適正だとされている。
下に着るワイシャツの袖よりも少し短いのが理想だ。
長くても親指の付け根くらいまで。

ところが、親族の略礼服wを見ると、親指の付け根をはるかに越えるくらいの長さの袖丈のオッサンたちがいる。オバQの博士君みたいになっているのだが、本人たちはそれが正式だと信じて疑わない。ちょっとは疑えよ。(笑)

デザイナー氏は手首までの袖丈のジャケットを着ていて、そういう親類から

「あんた!ジャケットの袖短すぎるで!あかんやろ」と叱責されたそうで、苦笑するほかない。

革靴にしてももっともフォーマルなのはストレートチップであり、次にプレーントゥ、Uチップ、ウイングチップはややカジュアルになる。
でも親族の中には、人の袖丈に良くわからない意見をするわりには、自分は真っ黒のダンロップあたりのスニーカーを履いているオッサンがいる。
何なんだろうか?このアンバランスさは。

ビジネスシーンのスーツスタイルにしてもそうだ。

シングルジャケットの前ボタンを全部止めている人が多い。
二つボタンなら一番下は外しておかねばならない。
全部止めたからといって「キッチリしている」のではない。

あとなぜか白い綿の靴下を履いているオヤジ。

2年ほど前から白い靴下がトレンドに浮上したが、このオヤジたちはそのはるか以前から白い靴下をスーツに合わせている。
理由はわからない。

黒いナイロンの靴下は蒸れやすいから綿の白い靴下に逃げているのだろうか?
しかし、綿の黒無地の靴下も普通に売っている。今なら1足200円とか250円で見つけられる。
なぜそれを買わないのか。理解不能である。

スーツに白い靴下は本来は合わせてはいけない。
黒、グレー、紺あたりがもっともオーソドックスで、変化球としてボルドー無地とか深緑無地、こげ茶色無地なんていうのがある。

トレンドとして白靴下が盛り上がったのは、そのタブーをわざと崩すという点であり、知らずに着用しているならそれはオシャレでもなんでもなく単なる物知らずである。

フォーマル、ビジネススタイルに関しての可笑しな点はまだまだあるのだが長くなるのでこのあたりにする。

これまでルール無用のカジュアルスタイルを存在感を表してきた日本人だが、今後はそういうフォーマル、ビジネススタイルを身に着ける必要があるのではないか。そうでなければ、日本からのファッション発信はもう一段先へ行けないのではないかと個人的に思う。

中国をはじめとするアジア各国が今後もどれだけ経済成長をするかは不透明だが、ルール無用度合なら今の日本より彼らの方が上であろう。
それらに埋没しないためにはそういう基礎が必要なのではないかと思う。




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