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南充浩 オフィシャルブログ

同じ商品なら安い方で買う、商品と値段が同じなら利便性の高い方で買う

2016年3月23日 考察 0

 街の中型・小型書店が次々と倒産・廃業に追い込まれている。
様々な要因があるのだろうけど、インターネット通販の大手Amazonの躍進もその一つに含まれるだろう。

メディア関係者からは「書店が減少するのは問題だ」とか「街の書店を守れ」なんて情緒まるだしの感情論しか流れてこないが、こういう主張は聴くに値しないと思っている。

筆者は関西の田舎町に住んでいるが、この田舎町では欲しい本、新刊本が満足に手に入らない。
車を飛ばして近隣の大型ショッピングセンターに入店している大型書店に行くか、大阪市内に出て大型書店に行くかしかない。
これはAmazonが躍進するより前からそういう状態である。

はっきりとは覚えていないが、2005年より以前からそういう状態にある。
小型書店は1件だけあるが品揃えが悪い上に、閉店時間も早い。
平日に仕事をしている人では利用することは不可能である。

母方の実家は吹田市にある。
JR吹田駅前には商店街があり、かつては3軒くらい個人経営の小型書店があった。
しかし、2軒はすでに廃業している。
もちろんAmazonが躍進するよりも前である。

記憶では80年代、90年代にはすでに街の中型・小型書店は、都心の大型店に駆逐され始めていた。
地元の中型・小型書店よりも通勤や通学で立ち寄る都心の大型店の方がはるかに品揃えが良い。
本なんて割引販売やバーゲンはないから、どこで買っても値段は同じだ。
だったら品揃えの多い大型書店で買った方が利便性が高い。

同じ価格の同じ物を売っていたら利便性が高い方の店が利用されるのは当たり前の話である。

2005年以降、インターネット通販が急速に勢力を伸ばしてきた。
今度は大型書店がAmazonに脅かされるようになり始めた。
中型・小型書店はますます苦境に立たされる。
なぜ、大型書店がAmazonに脅かされるようになったかというと、Amazonの方が利便性が高いからだ。

つい先日、1年前に発行された本を買おうと思った。
買い忘れていたことを思い出したのである。
一先ず、良く立ち寄る都心大型書店を3軒ハシゴして探してみた。
ところが見つからない。
毎日大量の本が発行されるから1年前に発行されたベストセラーでもない本なんて残っていない。
ましてや実店舗ではストックルームも限りがある。
そんな本を置いておくスペースもない。

諦めて、Amazonで検索してみたらすぐに買えた。

3軒を回ったのははっきり言って徒労だった。

あれだけの広さを誇る都心大型店ですら、Amazonには品揃えが及ばないと改めて痛感した。
実店舗はストックルームが有限だが、ネットショップの陳列場所は無限である。
しかも送料無料であり、早い場合なら翌日に届く。
べつに数日くらいかかっても構わない。そこまで急ぎの商品なんてあまりない。

同じ商品を同じ値段で売っていたら利便性が高い店舗の方が選ばれる。

中型・小型店より大型店、大型店よりAmazonということになる。

空き時間にふらりと大型書店に入って、どんな新刊が出ているかを眺めるのは好きだが、「それが書店の存在意義だから書店を大事にせよ」という主張には首を傾げざるを得ない。
それなら各エリアに1つか2つずつ大型書店が存在すればそれで事足りる。

大阪市内でいえば、天王寺、難波、心斎橋、梅田に1店舗か2店舗ずつ大型書店が存在すれば良いのではないか。

さて、以上のようなことは書籍以外の他の分野でも同じではないか。

同じ商品を同じ値段で売っていたら利便性の高い方で人は買う。
Amazonの場合は圧倒的な品揃えと送料無料が利便性である。
それと、買い物をする時間を選ばないことである。
早朝でも真夜中でも買い物ができる。

この「利便性」を上回る魅力を提供できない書店は駆逐・淘汰されても当然だろう。

洋服も同じではないか。

同じ商品なら人は値段の安い方で買う。
同じ商品を同じ値段で売っていたら、人は利便性の高い方で買う。

値段ではない「何か」、利便性を越える「何か」を提供できないブランド、ショップは淘汰されても当然である。

各社ともその「何か」を懸命に考えていることは理解するが、その方向性が間違っていることは多いと感じる。

闇雲に「国産」とか「日本製」を掲げられても、決めてとなる「何か」ではないと感じるし、「物作りの尊さ」なんて物を押し付けられても「しらんがな」である。

「スペック、機能の高さ」には心動かされるときはあるが、そこにこだわりすぎると今度は「機能競争」に巻き込まれる。
「A社のダウンジャケットが200グラムだから、当社は196グラムにしました」みたいなそんな意味の分からない競争になる。
プロやプロに近いスポーツ選手や3000メートルを越えるような山にアタックする登山家なら7グラムの違いにこだわるべきだが、一般消費者に7グラムの軽さが重要だろうか。
1円玉7枚分の重さが違うことに都市生活の一般消費者がどれだけ利便性や魅力を感じるだろうか。

本も服も、安さと利便性を越える「何か」を考えないと、現在の商況を打破することはできないから、一層奮起してもらいたい。



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2015-06-05


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