舵取りが難しいビンテージ系ジーンズブランド
2016年3月3日 ジーンズ 0
ビンテージ系ジーンズブランドの商品企画を経験したことのある人と雑談をした。
90年代半ばから2000年ごろにかけて続々と誕生したビンテージ系ジーンズブランドだが、最近は振るわないといわれている。
一部のブランドは上手く方向転換したが、それは例外的で、大多数は縮小傾向にある。
それは一般消費者が「本物の良さをわからなくなった」からではない。
商品価格の高さという要素を除外して考えても、ビンテージ系ジーンズが非トレンドアイテムだからだ。
今のジーンズトレンドとはまったく別世界になっている。
トレンドというのはいわば「マス」商品であり、ビンテージ系ブランドは非トレンドなのでニッチ商品、マニア向け商品である。
マニア向け商品というのは、当然、需要が少ない。
マニアと呼ばれる人の人口は基本的に少ないからだ。
需要が少ないから売上高が減るのは当たり前である。
トレンドということで考えてみると、ジーンズのマス商品は相変わらずスキニーだといえる。
ただ、スキニーブームが長続きしていることに対して飽きがあるので、腰回りと太ももに少しゆとりを持たせたテイパードや全体的に少しだけゆとりを持たせたスリムストレートなども支持を得ている。
しかし、基本的にシルエットは「細身」であり、それを苦痛なく穿いてもらうためには、ストレッチ混デニム生地の採用が不可欠といえる。
筆者も一昨年以降購入したパンツはすべてストレッチ混であり、細身シルエットが続く限りにおいて、ストレッチ混ではない生地のパンツを買うことはないだろう。
穿いていて苦痛だからである。
45歳にもなったら着用して苦痛が生じるような衣服を買うことはない。
女性だとワイドパンツやフレアへの注目が高まっているといわれるが、以前のブーツカットブームのように緩やかなフレアがマスになることはあってもワイドパンツがマス化することは難しいのではないか。
丈が短いガウチョタイプは引き続きマスになるが、フルレングスのワイドパンツが似合う人は日本人では少ない。足が長くて、尻が高い位置にない人以外は不恰好である。
しかし、日本人の多くは足が短くて、尻が低い位置についている。
ガウチョみたいな短い丈ならまだしも、フルレングスのワイドには不向きな体型である。
女性も引き続き、細身を基本としたまま、気分転換商材としてガウチョやフレア、一部のワイドを着用するのではないか。
ビンテージ系ジーンズの特徴は、綿100%デニム生地を使用しており、しかも厚手である。
マスである細身には向かない。
よほど我慢強い人でないと、そういう素材で作られた細身パンツを着用し続けることはできない。
だから従来のビンテージ系ジーンズの多くは、太目のシルエットである。
そしてこの「太目」は現在注目されているトレンドとしてのワイドとは異なる。
トレンドのワイドは、如何にストンと落ちて流れるようなシルエットになるかがカギであることに対して、ビンテージ系の太目は、生地が固くて厚いから流れ落ちずに裾に溜まる。
同じ太目でもまったくシルエットが異なる。また素材の性質も異なる。
仮にワイドがトレンドになってもビンテージ系ブランドがトレンド主流になることはないだろう。
ビンテージ系ブランドとして採りうる方策は2つである。
1、ストレッチ混デニム生地を採用して、トレンドの細身シルエットを大々的に打ち出す
2、このまま少数のマニアに向けて細々と事業を継続する
1を採った場合は、従来のファンは間違いなく離れる。
新しいファンを獲得できれば良いが、新しいファンが獲得できない恐れもある。
しかし、年間売上高が10億円を越えるくらいの規模になると、マス層を一部獲得しないことには企業規模を維持できない。
ビンテージ系の大型ブランドにとっては難しい選択である。
年間売上高が5億円以下の小規模ブランドだと2の方策で良い。
ビッグブランドになりたいならその方策では無理だが、現状維持で良しとするならマニア向けに徹すれば良い。
ただ、今後もビンテージ系のあの商品がマストレンドになることは考えにくい。
また96年、97年当時のあの商品に戻ってくることもない。
トレンドはいつか回帰するが、その当時そのままではない。どこかが変化している。
これを業界では「螺旋的進化」と例える人が多い。
ビンテージ系ジーンズブランドは、現状維持を目的としながら少人数小規模運営に徹するのがもっとも賢明だろう。
そして、創業者や現在の運営者の引退とともにブランドも終えるというのが理想的な結末といえる。