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南充浩 オフィシャルブログ

EC比率の高低だけを論じるのは意味がない

2016年2月8日 FLAG 0

 アパレル業界というのは「小手先の目新しさ」に飛びつくという悪癖を持った業界である。
アイテムのトレンドに対して飛びつくのは元々がミーハーでなければ務まらない業界なので、それはそれで良いと思うが、経営方針や新規開発事業も同じ傾向なのでいささかどうなのかと思う。

もっとも、ミーハーだった現場担当者が年を取って、経営陣になるわけだから「三つ子の魂百まで」というようにミーハー具合は変わらないということだろう。

少し前だと「闇雲な低価格化」だろうか。
その前は「QR(クイックレスポンス)化」。
2008年だと「ファストファッション化」。
2011年以降は「メイドインジャパン化」か。

最近だと業界と業界紙でホットな話題は、EC化比率だろうか。

「EC比率を3割にまで高めたい」というワールドよろしく、EC化比率を高める競争みたいになっている部分があるが、果たしてEC比率を高めることが良い施策と言えるのだろうか。
もちろん、元々そういう狙いの上に立脚していたという企業や、端から実店舗を持たずにECのみで販売していたという企業を批判するつもりはない。
それは中長期的視点に立って、自社の強みを最大限に生かした施策の一つだと評価する。

問題は、実店舗が売れないからECという安易な企業である。

実店舗で売れない物がECで売れると思っているのだろうか。
もちろん、工夫次第では売れる。
しかし、そんな工夫ができているなら実店舗でだって売れているだろう。
実店舗で工夫できない企業がECになると途端に工夫できるようになるはずがない。

The Flagは最近、熱心にEC化についての議題を設定している。
各社のEC化比率をまとめた資料もある。

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この表を見ると、金額はおそらく百万円単位だと思われる。
ファーストリテイリングだと255億円強ということになる。

業界紙や経済誌も最近はナントカの一つ覚えよろしく、決算会見などで「貴社のEC比率は何%ですか?」とか「EC比率を何割まで高めたいですか?」なんて画一的な質問をする。
しかし、一部を除いてECなんてほとんど理解していないような老経営者も多い。

会見での質問が引き金になって、老経営者自身もよく理解していないEC化に突如として必死に取り組んでしまうことだってあるだろう。

気のせいかもしれないが、最近の業界紙・経済誌はEC化比率の高いことが良い施策で、低いことが遅れた施策という論調が強すぎるように感じる。

例えばファーストリテイリングだが、EC化比率は低い。4%である。
これを指して「10%に高めることが望まれる」とか書かれることもある。
まるっきり間違った批評だとは思わないが、売上高は255億円強である。
実は、アパレル業界でECでの売上高が最も高いのはファーストリテイリングなのである。

なぜEC比率が低いかというとファーストリテイリングそのものの売上高が他社に比べてケタ違いに多いからで、そのトップ企業に対して「EC比率を高めることが課題」という指摘は、筆者にはどこかピントがズレていると感じられる。

国内実店舗で8000億円前後売れるならそれで問題ないのではないか。
ECに全然取り組んでいないというなら問題だが、すでに255億円強も売り上げているのだから、ファーストリテイリングの場合は、EC比率を何%にするのかは、それこそファーストリテイリングのペースに任せるべきではないかと思う。

この表でいうなら、それよりも、EC化比率1%で4億7500万円しか売っていないレナウン、16%と割合に比率が高いのに5億9300万円しか売れていないシップスあたりを心配してやった方が良いのではないか。

レナウンの場合は、EC化比率もEC売上高も低すぎるだろうし、シップスの場合はEC化比率は驚くほど低くはないが、EC売上高が低い。比率が高い割に売上高が低いということは、実店舗も合わせたシップスそのものの売上高の低さが気になる。

WEGOは7%で7億円ほどだが、もう少し売上比率を高めることは可能だろう。
鎌倉シャツはECともっとも親和性が高いように思う。
なぜなら、メイン商材のシャツは、シルエットが二つか三つほどしかなく、あとは色柄、襟の形を変えただけである。1枚か2枚所有していれば、それを基に試着せずに追加購入することができる。
EC化比率も23%と高い。今後はますます高くなることが予想される。

闇雲なEC化競争よりも自社の商材やスタイルがECに適しているかどうかの方が重要ではないか。
サイズがほぼ決まっている鎌倉シャツならECは増やしやすいし、トレンドやアイテムごとにサイズ感が変わるブランドならいくら「EC化強化」と叫んだところで、消費者側としては試着してからでないと怖くて買えないということになる。

消費者の利便性を考えると各社ともEC化には取り組まねばならないが、比率の高低だけで善し悪しを論じるのはまったく意味がないだろう。





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