正月早々、ドラマか映画のような中小企業の大逆転劇が報道された。

「おじいちゃんのノート」に大反響 孫がツイッターで拡散→在庫の山に注文殺到 奇跡を生んだ数々の偶然
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160104-00000002-withnews-sci&p=1

お読みになった方も多いと思う。

東京都の中村印刷所が特許取得した画期的な方眼ノートが、同社を手伝っている男性の孫娘のツイートがきっかけで一気に注目を集めている。

 発売したのは2014年10月。東京都の機関が試験的に購入・評価して普及を応援する「トライアル発注認定制度」にも選ばれるなど、性能は評価されてきましたが、なかなか売れません。大量発注の話があって作ったものの、実際の注文には結びつかず、数千冊の在庫を抱えていました。

 「使ってもらえば、良さがわかってもらえるのに」。自分が作った在庫を見て罪悪感を感じていた男性は、孫娘にノートをまとめて渡しました。「これ、学校の友達にあげてくれ」

受け取った孫娘は、こう思いました。「学校じゃ、あんまりノート使う人いないしなー。そうだツイッターでやりとりしてる絵描きさんとか喜ぶかも」

 元日に軽い気持ちでつぶやくと、多くの反響が寄せられました。

中略

大手の通販サイトなどで品薄となり、中村印刷所には続々と追加注文が入っています。手作業のため1日300冊ほどしか作れませんが、幸いなことに大量の在庫があります。自社のホームページにも通常の200倍以上のアクセスがあるそうです。

本当に、近い将来小説化されたりドラマ・映画化があり得るんじゃないかというような大逆転劇である。

多くの方がこの報道を目にされたと思うが、何を感じられただろうか?

物作りを極める素晴らしさだろうか?
特許取得できるアイデア力の素晴らしさだろうか?

どこかの書き込みで「下町ロケット」にも通じる物作り精神の勝利、みたいな内容を目にした記憶がある。

筆者はそのどれもに共感できない。

この報道から得るビジネスのヒントは「知られていないのは存在しないのも同じ」ということではないか。
画期的な特許取得の方眼ノートでさえ、今年の初めまでは世の中に知られていなかったのである。
知られていないということは多くの人にとっては「存在しないのと同じ」である。
存在しないのだから中村印刷所への発注はゼロであり、中村印刷所の倉庫内だけでこの方眼ノートは存在していたということになる。

いくら特許を取得しようが、いくら品質が高かろうが、その存在を知られていないと1冊も売れない。

これが現実である。

これが売れたのは、製品の品質がさらに高くなったからでもなく、さらに画期的な特許を取得したからでもない。
孫娘がツイートして、それが多くの目に触れたからだ。

この方眼ノートはその時点で世の中に初めて存在するようになったと言える。

商品開発・商品製造に力を入れるのと同じくらいに、告知・発信に力を入れないと物は売れないということを示したのがこの事例だと感じる。

製造業・加工業の多くは、自社の技術を高め、新たな開発に力を注いでいる。
その反面、告知・発信がおろそかであり、中には「告知・発信ナニソレ?」という企業も少なくない。

繊維業界でも同じである。

ノートの協力開発者の男性の「使ってもらえば、良さがわかってもらえるのに」というつぶやきは、繊維業界でも腐るほど耳にする。
「触ってもらえば良さがわかるのに」「着てもらえば良さが分かるのに」。

いやいや、触ってもらう、着てもらう、使ってもらうためにどうするかということも「物作り」以上に重要なのである。どのようにして「知ってもらうか」がすべてのビジネスにおいて重要なのである。

この部分の活動がなかったから方眼ノートは売れなかったわけだし、繊維業界の製造・加工業者は下請けに甘んじており、某セレクトショップから「1枚200円の工賃でTシャツを縫ってくれ」などと依頼されてしまうのである。

孫娘のツイッターが奏功したように、今ではネットを使って自社でほぼ無料で発信ができる。
製造・加工業は商品開発と同等に、発信にも注力する必要がある。

そのことが改めて浮き彫りになったのではないか。

下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸 潤
小学館
2015-11-05


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2016-03-23