昨日、大人気ドラマ「下町ロケット」が最終回となった。
最終回の視聴率は22・3%と高く、今年の連続ドラマの中では最高となった。

下町の機械部品工場の奮闘を描くストーリーで、如何に高品質な物作りをするかに情熱を傾ける主人公の姿が胸を打った。

機械や機械部品の場合、物作りへの評価はしやすい。
性能が高ければそれが評価に直結する。
それでメンテナンスが簡単で、価格が割安(激安ではない)ならばさらに評価は高まる。

最終回の少し前にこんな記事が掲載された。
下町ロケットをアパレル業界に当てはめた記事だ。

また1つ、大阪発のブランドが消える-「下町ロケット」とは真逆の構図、モノづくり精神は…
http://www.sankei.com/west/news/151217/wst1512170003-n1.html

先ごろ会社清算が発表された遊心クリエイションと、今年2月に会社解散したフィットに関してである。
大手アパレルが本社や本社機能を次々と東京へ移転させる中で、大阪を拠点にし続けた2社が相次いで消えたことに対する哀惜の念が込められている。

関西在住の筆者も気持ちはわからないではないが、仕方がないことだろう。
フィットはさほど悪い決算ではなかったが、取り立てて良いということでもなかった。
当時のTSIホールディングスとすれば、存続させることに対して価値を見出していなかったということだろう。

遊心クリエイションについては先日も書いた通りだが、大先輩の指摘を付け加えるなら「親会社の日鉄住金物産の投資が中途半端だった」ということもあるだろう。
低価格ブランド「イーブス」の採算を好転させるためには、店舗数を早い時期に拡大しなくてはならない。
そのためには資金が必要だが、日鉄住金の投資はそこまでではなかったということだろう。現に40店舗強で出店は止まって、逆に店舗数を減らしている。

もしくはまったく資金を投入しないかだ。
遊心クリエイションは困ったかもしれないが、日鉄住金の財務は傷まなかった。

ただ、店舗数を拡大して生産枚数を増やせば今度は売れ残りの在庫も増える。

また、イーブスはいくつかフランチャイズ店も抱えていたが、これを直営にすべて切り替えたことも反対に採算を悪化させた原因ではないかとも思う。

まあそれはさておき。

この記事の筆者の気持ちはわかるが、機械部品とアパレル製品を同列に並べて物作りを語るのはちょっと無理があるのではないかと思う。

機械部品の評価点は、先ほども書いたように「性能」である。
性能はだれが評価しても一目瞭然だ。
なぜならすべては数値で表せられるからである。
作動効率が何%上昇、摩耗耐久性が何%上昇、などという数値で誰が見てもわかりやすい。
嗜好品ではないからそれで良いのである。

さらにメンテナンスが簡易化され、製造コストが維持ないし、微減していればさらに言うことはない。

一方、アパレルも生地も「性能」「機能」では評価されないし、それを表す数値もない。
ものすごくダサい色柄の生地があって「ストレッチ性が30%増」であっても、それを使って服を作ろうと思うブランドはないだろうし、その生地を使って作った洋服が不恰好ならそれは消費者には売れない。

洋服には嗜好品という要素が強いからだ。

「性能」「機能」が高くなくても「ブランド」として評価されている服も数多くある。
1日着用したら2,3日は休ませないと擦り切れたり膝が出たりするような高級スーツもある。
貧乏な筆者はこんなめんどくさい服は宝くじが当たっても絶対に買わないが、これを好んで買う富裕層もいる。
彼らは「性能」「機能」では評価していないということである。

先ほどの記事にこんな一節がある。

知人の大阪在住のデザイナーが手がけるブランドは逆だった。数年前に大企業から離れ、小さな会社を立ち上げた。「これで、気兼ねなく好きな生地を買い、私のこだわりを詰め込んだ服が作れる。
デザイナーとして、モノを作る人間としてこんな幸せなことはない」と話している。
企業の中のデザイナーであったときはコストや売れ筋を常に気にしなければならなかったという。
今は生産数は極少数のため大きくもうけることはできないが、まずまず順調な経営状態とのこと。これぞモノづくりの神髄かと思った。

これはこれで一つの真実であり、事実だが、下町ロケットのドラマをちゃんと見ていれば彼らが異様に「製造コスト」や「採算性」にこだわっていたことも理解しているはずである。
当たり前である。工場がコストや採算性を度外視した物を製造するはずがない。
彼らは家内制手工業をやっているのではなく、大量生産を基本とした工業製品を作っているのである。

反対に、独立系の個人ブランドのデザイナーでも採算性、コストは重視している。
重視していなければそんなブランドは短命で潰れる。
もちろん、1シーズンの展開型数の中に、採算度外視のアイテムがいくつか含まれていることはある。
しかしそれ以外のアイテムはコストや採算性を考慮して作られている。

高品質な生地は1メートル何千円、何万円という価格になる。
これを満足いくまでふんだんに使って服を作ったら、服の販売価格は軽く10万円前後になる。
10万円の服が売れるようなブランド力があれば別だが、ラグジュアリー系ブランド以外にそんな力はない。

そういう服を作っている若手デザイナーブランドもあるが、そういうブランドは決まって採算性が悪い。採算性が悪いというより売上高そのものが低い。

それで「満足だ」という物作りの姿勢もそれはそれでありだ。

しかし、そういうブランドばかりがいくら増えても、生地の供給元である生地工場、縫製工場は潤わない。
生地工場、縫製工場がなくなればそういうブランドは「物作り」はできなくなる。

長年付き合いのある独立系のデザイナーは「青天井に値段の高い良い生地を使いたいと思うことがあるが、採算性やコストを考えてそういう生地は選ばないようにしている」と話している。
これが実際のブランドの「物作り」だろう。
逆に記事中に出てくるブランドの経営は大丈夫なのかと心配になる。

下町ロケットのヒットによって、勘違いした「物作り系」の人々が多数湧くかと思われるが、そんな感情家は業界にとっては、百害あって一利なしだ。

下町ロケット (小学館文庫)
池井戸 潤
小学館
2013-12-21


下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸 潤
小学館
2015-11-05