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南充浩 オフィシャルブログ

組合主導で進める限り、産地のブランド化は成功しない

2015年12月14日 考察 0

 近年、繊維産地のブランド化への取り組みが相次いで発生しているが、成功しそうな可能性がある案件はほとんどない。

よくあるのが産地・素材名を全面的に押し出したブランド作りである。
そしてそれを組合単位でやろうとする。

これは確実に失敗する。

例えば「岡山デニム」とか「福山デニム」のようなネーミングで、それを岡山織物共同組合(仮名)とか福山テキスタイル組合(仮名)が推進するという構図だ。

ちなみに「岡山デニム」「福山デニム」も組合名も架空の例え話である。

国内デニム生地は最早十分にブランド化されているからこんな取り組みをわざわざする必要はない。

失敗する理由を挙げる。

まず、一口に「福山デニム」と言ったところで、福山地区で生産されているデニム生地の価格もクオリティもピンキリである。
どの基準を「福山デニム」とするのか。
まずその基準作りが必要であるが、多くの場合、ごった煮ですべて「福山デニム」で包括しようとする。
これが失敗の大きな原因である。

じゃあ、安かろう悪かろうのデニム生地まで「福山デニム」に含めてしまえば、それを使用したブランド、そのブランドの商品を購入した消費者の間に、「なんだこれは?」という不信感が生まれる。

なぜこんなごった煮状態を望むかというと、それは組合単位でブランド化事業を進めているからだ。

衰退しているといわれる産地組合だが、各々の組合に加盟している社数は最低でも30社とか50社くらいはある。大きな産地だと100社、200社というのも珍しくない。

組合単位で事業を進めるということは、組合会員全員に平等に接し、各々の意見をすべて吸い上げなくてはならない。
たった5人や10人で会議を開いても全会一致で賛成される事案なんてほとんどない。
これが30人とか50人に増えたらどうだろうか。絶対にまとまらない。

そうなると反対派もある程度納得してもらうために、ヘンテコリンな折衷案が採用される。
画期的なプランもさまざまな意味の分からない修正がくわえられた結果、毒にも薬にもならない折衷案が作成される。

これで一巻の終わりである。

わけのわからない中途半端な折衷案など成功したためしがない。

組合会員だから、安かろう悪かろうの機屋の生地も「福山デニム」に含めるという義務が生じてしまうというわけだ。

まあ、とりあえず生地に名前を付けた。
もうすでにグダグダなのだが。

次はそれを使った製品を考案して、より分かりやすくする必要がある。

生地メーカーとか染色加工業者が逆立ちしたって製品の企画は作れない。
まともな製品を企画したいなら、プロデューサーとかデザイナーとの契約が必要になる。

しかし、契約しただけでは本当に売れる製品なんて作れない。
産地側からのサジェスチョンや指示が的確でなければならない。

指示をしない機屋はデザイナーに丸投げである。
丸投げされたデザイナーは自分の感覚で好きな物を作る。
そして売れない。

当たり前である。
ブランドを立ち上げるなら、「何をどのように、誰にいくらで売る」のかを決めなくてはならない。
それにそってブランドコンセプトを作る。

この作業が丸々抜け落ちていて何がブランドなのか。

例えば「19000円のジーンズをインターネット販売で年収700万円以上の層に販売する」ということを決める必要がある。そしてこれを決めるのはデザイナーではない。組合側である。

決めたターゲットに対して、どのようなコンセプトのブランドにするのかということを考えて、そこから初めて商品のデザインを作ることになる。
デザイナーができるのはこの段階で「商品のデザインを作る」という部分である。

この作業ができている産地組合を見たことは経験上皆無である。

だから組合主導の産地ブランドは成功した試しがない。

そのうちに業を煮やした産地の各機屋は自分たちで商品デザインを考え始める。
その背景にはデザイナーへの不信感とやたらとセコい経費削減がある。

大概の場合、機屋の社長やその親族が考えたデザインはだめである。
ど素人がちょちょっとデザインして売れるようなそんな甘い状況ではない。
そんなデザインで売れるなら、アパレル各社はここまで不振を極めていない。

ど素人がちょちょっと片手間にデザインした製品に対して、アホみたいに高い値段を付けようとする。

そして売れなくてお終いである。

いくら〇〇産であろうが、不恰好で高い製品なんて誰も買わない。
それならユニクロの週末値引き品を買った方が一億倍マシである。

逆に自分が買い物に行ったときに「不恰好で価格がアホみたいに高い〇〇産」の商品を買うかということを考えてみれば良い。
そんな物は絶対に買わないだろう。

産地の人々や物作り系の人が往々にして忘れがちなのが自分も消費者であるということである。

「安物を買うのはけしからん」というのは簡単だが、そういう自分だってブランド品が格安で買えたら嬉しいはずである。

仮に「ラルフローレンのシャツを2000円均一で販売します」という店があったとしたらそこで喜んで買うのではないか。

それと同じで「日本製だけど不恰好でアホみたいに高い商品」を買うかということも考えてみれば良い。

「〇〇産の生地を使って日本国内の縫製工場で縫製したから無名ブランドだけどこのトレンチコートは20万円します」と言われたとする。
でも多くの人は20万円のトレンチコートならバーバリーとかアクアスキュータムで買う。
そちらの方がブランドステイタスが高いからだ。

しかもおまけにデザインが不細工ならそんな商品は絶対に売れない。

組合単位でブランド事業化に取り組んでいる限り、今後も成功するケースはかなり希少であり続けるだろう。


 


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