TPPの基本合意で我が国貿易がさらに活性化するような雰囲気がある。
ただし、これから各国の国会で批准されるという作業が残っており、もし各国で批准されなければTPPは開始されない。
とりあえず、基本合意しただけという状態である。

さて、東洋経済オンラインでこんな記事が掲載された。

「牛丼がTPPで激安になる」という噂のウソ
http://toyokeizai.net/articles/-/95330

牛丼チェーン各社が使用する牛肉は、主に北米産のショートプレート(牛バラ肉)である。現在の価格は1キログラム当たり約600円。これがTPP発効後16年目以降になると関税が29.5%下がるため、1キログラム当たり471円と、129円下落する見込みとなる。

牛丼チェーンによって異なるが、牛丼並盛1杯に入っている牛肉の量はおおむね100グラム前後が主流。そこからTPPの影響を推計すると、関税引き下げによって牛丼並盛1杯の牛肉調達コストは12.9円下がることになる。つまりせいぜい10~20円程度の値下げ余地しか発生しないことになる。

そうであるならば1年で3~4割の乱高下がしばしば起こる牛肉相場や、為替レートの変動のほうが影響は大きくなると考えるのは自然な話。

とある。

関税廃止で牛丼が値下がりするとしても10~20円程度で、現在350円の牛丼が330円か340円になるというイメージである。
たしかに値下がりはするが、大きく値下がりすることはないということになる。

実は、筆者もこれと同じ取材を衣料品で行った。
週刊エコノミストからの依頼によってである。

衣料品でもTPPによる関税廃止で大きな値下がりはないというのが、結論となった。

貿易のド素人である筆者も勉強しながら短い記事を書いたわけだが、関税は「店頭販売価格」ではなく「仕入れ原価」にかけられる。
大雑把にまとめる。

例えば、中国とかA.S.E.A.N.で製造しているSPAブランドがあったとする。
通常、国内の業界標準では原価率は30%とされている。(今はもっと低い原価率のブランドも山ほどある)

店頭販売価格1万円の商品は3000円で作られているということになる。
これを国内に輸入するわけだから、この3000円に対してだいたい10%程度の関税が発生する。

関税は300円ということになる。

となると関税が廃止されて値下がりするのは300円分ということになり、1万円の商品が9700円になる。
1000円とか2000円とか値下がりするわけではない。

牛丼の10~20円よりは値下がり効果があるといえるが、一般的に流布している「大幅な値下がりイメージ」とはほど遠い結果となる。

またTPPには中国が加盟していない(していないというよりできない)し、A.S.E.A.N.諸国でもタイやミャンマー、カンボジアも加盟していない。現在の日本の衣料品製造に大きなかかわりをもっている参加国はベトナムくらいしかない。

厳密にいうともっとさまざまな要素が加わるが、大雑把にまとめるとこういうことになる。

それよりも洋服の価格を大きく左右する要素は、

1、製造地の人件費
2、原材料費
3、為替相場

といえる。

ユニクロや無印良品が一斉に値上げをした理由は関税ではなく、この3つが上昇したからである。

アジア地区の人件費高騰、原材料費の高騰、そして円安基調である。

先の東洋経済の記事でもこう指摘されている。

スーパーに売られている牛肉パックについても、小売り各社を訪ねると、残念ながら似たような意見が返ってきた。「うちの営業担当はTPPより相場の動向を気にしている。関税よりも振れ幅が大きいからね。加工肉は価格が下がるという説もあるが、結局は商社などにサヤを抜かれるのではないか」(東京地盤の小売り大手)。

衣料品もまったく同じだといえる。
実際に取材した各社の担当者は同様の意見を述べた。関税よりも為替相場と原材料費である。
アジア地区の人件費はこれからさらに上がることはあっても下がることはない。
下がる可能性があるのは原材料費と為替相場である。

そんなわけで衣料品の価格はTPPが施行されても大きくは値下がりしないだろう。
というか、現在の日本の衣料品価格は世界一安い。これ以上値下がりしたら衣料品業界そのものが消滅しかねない。

このあたりの状況はメディアが正確に伝えなければならないのではないか。