「高品質な日本製を打ち出すことでブランドイメージを向上させる」

どこかの大手アパレルが好みそうなキャッチフレーズである。
散々海外生産を増やしておきながら今更どの口が言うのかと呆れ果てる。

しかし、実際のところ日本製は必ずしも高品質ではない。
すべてがそうではないが、ブランド側からすると「使いづらい」縫製工場も多々ある。
もちろん、高品質な工場も存在することはいうまでもないが、マスコミが煽るほど日本製衣料品はすべてが高品質ではないということである。

長らく中国生産のエキスパートだった友人のOEM屋が、国内生産を取り入れ始めたのは5年ほど前のことである。
それまでは中国生産一辺倒だった。

その友人の当時の第一声は「国内縫製工場は使いづらいところがある」というものだ。
理由を尋ねてみると、「当初予想よりも仕様が複雑な衣料品があったとすると、中国工場はよほどの困難が無い限り、契約した数量は製造してくれるが、国内工場は着手し始めてから『こんな仕様では工賃を上げてもらわないとできない』とか『納期に間に合わせることは無理』と平気で言ってくる。これでは中国工場の方が使いやすい」というものだった。

友人の使っている中国工場は、追加生産になった場合には「仕様が難しいので工賃を上げてほしい」とか「納期を長く見てほしい」と言うが、着手し始めて「あれができない」「これもできない」とは言わないそうである。

もちろん中国工場も日本工場もピンキリだが、複数の業者の声を聴いても日本工場の方が「後出しじゃんけん」が多い印象がある。

先日、小規模なカジュアルブランドの展示会にお邪魔した。
以前から一部は国産だったが、近年の情勢(円安、人件費高騰)から来春夏商品はほとんどが国産品に切り替わっていた。

ところが、そのブランド担当者によると「国産が増えたために工場とのトラブルも増えた」という。

以前の中国工場だと簡単にできていたデザイン商品が「こんな面倒な物は縫えない」と言われる。
デザイン商品と言ってもさまざまである。
パッチワークでつなぎ合わせたような見るからにめんどくさい縫製仕様の物から、ベーシックに少しプラスアルファする程度の物まである。

このブランドの商品は、ベーシック商品に少し切り替えを入れた程度の物である。

これを「こんな面倒な物はできない」と言ってくるのが国内工場で、わけもなくできるのが中国工場というのが一方の現実である。

国内縫製工場の中にはこの期に及んでいまだに「定番商品をできるだけたくさん縫いたい」という要望を堂々と言ってのけるところが少なくない。

たくさんの定番商品を縫いたければユニクロか無印良品の注文でも取るほかない。
工賃が合うかどうかは知ったことではない。

定番品を大量に製造する国内ブランドなんて限られている。
それもほぼ低価格ゾーンに集中している。
そういう仕事がしたいのだろうか?
なら工賃をアセアン並みに切り下げて、製造キャパも中国工場並みに増やしてはどうか?

ということになる。
どちらも不可能だろう。

現在の国内縫製工場が置かれている状況は厳しい。
それにはこれまでの国内ブランドからの仕打ちがあることは間違いない。
工賃の引き下げ、不当返品、未引き取りなどなどだ。

しかし、いつまでもその当時のままでもどうしようもない。
現実世界でタイムスリップはできない。

中には小ロットのデザイン物も引き受けるというふうに姿勢の変わった縫製工場もある。
定番品の大量生産にこだわっていても中国工場と勝負すれば負けるし、これからはアセアンとの勝負にも負けるだろう。

資本力のない国内工場が莫大な投資をして製造キャパを広げるのは自殺行為だろうし、よしんば広げたところで中国工場、アセアン工場の規模には足元にも及ばない。

小規模なままで業務を継続するなら、工賃アップは交渉すべきだろうが、体制として小ロットのデザイン物も受け入れるメンタリティは必要になる。

「投資できないから小規模なままだけど、工賃は上げてほしい、でもデザイン物はやりたくない。できれば定番品を大量にやりたい。でも生産キャパないけどね」

こんな工場にどんなブランドがオーダーをするというのだろうか。

こういう姿勢が国内縫製工場を衰退させた理由の一つではないかと思う。

このところメディアやブランドが喧しい「日本製ブーム」というのは本当なのだろうか?

昨日こんな発表があった。9月単月の物だが、

9月の貿易統、衣類輸入が大幅増
http://www.senken.co.jp/ne…/management/foreign-trade-151022/

財務省が21日発表した9月の貿易統計(速報、通関統計)によると、衣類・同付属品輸入額は3903億3800万円(前年同月比4・2%増)で4カ月連続増となった。主力の中国が前年並みにとどまったが、ASEAN(東南アジア諸国連合)が大幅増となった。

中国からの衣類・同付属品輸入額は、2765億5400万円(0・1%増)となった。一方、ASEANは前年を大幅に上回る786億8100万円(20・4%増)。総輸入額に対する構成比率は20・2%。前月に700億円を初めて超えたが、800億円の大台も目の前に迫ってきた。このほか、米国は17億8100万円(3・3%減)、EU(欧州連合)は150億4500万円(1・8%減)、アジアNIES(新興工業経済地域)は12カ月連続減の18億5500万円(23・6%減)だった。

とある。

衰退しつつあるといわれる中国生産が微増でほぼ現状維持、アセアン生産は大幅増である。
米国とEUは減少している。

個人的には今後は中国生産が悪くて微減、基本的には現状維持、アセアン生産は今後大幅に伸びると考えている。
日本製は見かけのブームに反して良くて現状維持、悪くて減少するのではないか。
今後、生産はさらにアセアンに流れると見た方が確実だろう。

とはいえ、これでも筆者は国内生産をそれなりに応援している部分もある。
せっかくの追い風(見せかけのブームにすぎなくても)があるのに、40年前のメンタリティのまま「定番品をたくさん縫いたい」なんてことを言っていてはもったいないと思うのである。
もうそんな美味しいオーダーはどこからも来ないのだから。

「待ちぼうけ」という童謡がある。

これは韓非子の守株待兔(しゅしゅたいと)を下敷きとしている。

ある日、農夫が野良仕事をしていると、突然走ってきたウサギがキリカブに頭をぶつけて死んでしまった。
農夫は労せずウサギの肉を手に入れることができた。
そこで翌日から農夫は野良仕事を止めて、ひたすらウサギがぶつかるのを待ったが、そんな幸運なことは二度と起こらず、野良仕事をさぼった農夫は損害を被った。

という説話である。

40年前の「定番品を大量に」という美味しいオーダーをいまだに待ち続けている縫製工場はこの農夫と同じである。

韓非子 (第1冊) (岩波文庫)
韓 非
岩波書店
1994-04-18


韓非子解題
小柳 司気太
2013-10-21