MENU

南充浩 オフィシャルブログ

工場が自立化したいなら下請け的メンタリティーをすべて捨て去れ

2015年10月9日 産地 0

 「歩き出した工場たち。自立のために必要なこととは?」

こんなお題が出されたので、今日はこれについて考えてみたい。

要するに工場が自立化するためにはどうすれば良いのかということである。
工場の自立化というのは、繊維業界ではけっこう以前からある取り組みだが、成功したのはほんの一握りしかない。大多数はだいたいが補助金・助成金が終わるとともに自立化事業も終わりを迎えている。
補助金・助成金頼りという工場(製造・加工業)は少なくなかったし、今もそういう姿勢の工場は多い。

工場の自立化への取り組みとしてもっとも多く見られるのが、自社オリジナル製品の開発である。

繊維業界の工場というのは、生地作りだったり染色・加工だったり、縫製だったりと、繊維製品の一部分の製造加工を担う。
自社が担っている分野を拡大解釈して、自社オリジナルブランドの製品を作ろうというのがその主旨である。

最終形態は卸売りで終わるのか、それとも直接小売まで広げるのかはケースバイケースだが、一分野の製造加工を担うよりは、自社の仕事を自社でコントロールできる部分が増える。
一分野の製造加工では、どうしても受注先によって仕事が左右される。

もう一つの方法は、デニム生地工場のカイハラやクロキのように、その一分野で圧倒的な知名度を得て、地位を確立してしまうかである。
受注先に左右される部分がかなり残っているとはいえ、単なる下請け的な工場に比べると圧倒的に有利といえる。

どちらを選びたいかは工場の経営者が決めることで、外野がとやかく言う問題ではない。

ただし、どちらを選んでもこれまで通りの下請け的姿勢では達成できないことは間違いない。
自立化はそんなにたやすくできるものではないし、これまでのように賃加工の下請け的精神のままでは絶対に達成は不可能である。

さて、製品化ビジネスを選んだ場合は、マーケティング、広報、宣伝、販促、商品デザイン、マーチャンダイジング、営業などこれまでなかった能力がすべて要求される。
直接小売まで広げることを選んだ場合は、これにさらに店舗運営、店舗装飾、ビジュアルマーチャンダイジングなどの能力も求められる。

自社でこれらの部門い精通する人材を取り込むか、自社の不得意分野をすべて外注するか、そのどちらかしかない。そしてそれにはそれ相応の費用が必要となる。

そういう意味においては、「見えない物」に投資できる考え方がもっとも必要とされるのかもしれない。

過去の経験談でいうと、工場は「見えない物」に対してお金を払うことを異様に嫌う。
これまでの事業内容からそれは致し方のないことだとは理解できるが、そのままのメンタリティーで自立化事業が成功するはずもない。

例えば、ある事業主から相談を受けたことがある。
ほぼ、個人で展開されているくらいの小規模な事業である。
もちろん「工場」という分類がなされる。

その「工場」が日本に現存する数少ない機械を仕入れた。
技術伝承も含めて取り組む姿勢を業界新聞に掲載してもらうにはどうすれば良いか?というのが相談内容である。

これは簡単なことで、プレスリリースを作って業界新聞各紙に送付すれば何紙かには確実に掲載される。
自分でプレスリリースを作れれば良いが、できないなら代行業者に頼めば良い。
代行業者の料金相場もピンキリだが、だいたい2万~5万円くらいだろう。

ところが、この工場は「え?お金が必要なんですか」と驚いて、それで立ち消えになった。
必ずしも必要ではないが、自分で作れないなら、代行業者への料金は発生する。当たり前である。
何百万円か何千万円かする機械を仕入れることにはそれほどの抵抗を感じないが、数万円のプレスリリースの作成には頑強に抵抗する。これが多くの工場に共通したメンタリティーである。

そしてこれはプレスリリースだけに限ったことではない。
合同展示会出展費用、展示会場費、デザイナーへの報酬などそういう「目に見えない物」への支払いは頑強に抵抗する。
これによって事業がとん挫するのを何度も見て来た。

そういえば、以前に染色加工場が自社の技術を使ってプリント物の雑貨ブランドを立ち上げたことがあった。
工場にはデザイナーはいないから外注のデザイナーと契約し、デザイナーが雑貨の形と色柄をデザインし、デザイナーが営業や期間限定のポップアップショップまで担当していた。

ところが、この染色加工場はデザイナーとの契約更新をせずに、なんと驚くことにデザイン業務未経験の社長の息子にデザインを担当させた。理由はデザイナーとの契約料をケチったからだろう。
息子なら契約料は要らなくなる。
そして、これも工場経営者によくあることだが「若い人ならデザインできるだろう」という思いこみもあったのではないか。

ちょっと横道にそれるが、工場経営者は「若い人なら〇〇できるだろう」という根拠のない思考をよくする。
〇〇はデザインの場合もあるし、インターネットの場合もある。
若かろうが技能がなければデザインもインターネットもできない。何を言ってるのかと笑えてくるが、こういう思考はあまり珍しいことではない。

その結果、その雑貨ブランドは当たり前だが終わってしまった。
ど素人のお絵かきに金を払う消費者などいない。

ここまで書いてきたことが理解できなければ工場の自立化なんて到底不可能である。
必要なことを一言でまとめるなら「賃加工にぶら下がった下請け的メンタリティーをすべて捨てろ」である。
そしてもう一言を付け加えるなら「補助金・助成金に過度に頼りすぎるな」である。

この2つができないのなら自立化への取り組みなんて止めてしまえば良い。
労力と時間の無駄だから。

あと、ちょっと余談だが、「工場のために」と高額ブランドを立ち上げるケースが増えているように感じる。
これは外部の業者が仕掛ける場合もあるし、工場が自立化のために主体的に立ち上げるケースもある。

これはこれで一つのやり方だと思う。

しかし、日本の物作りが高額ブランド一辺倒になるのは危険ではないかと思う。

ある大先輩の資料によると、日本のアッパー層とアッパーミドル層の合計は8%しかいないとされている。
この8%に向かって高額ブランドが多数立ち上がったところで、全ブランドを買うわけではない。
また海外ラグジュアリーブランドとの競合がある。(これを忘れている業者が多い)

高額ブランドを売って高額な工賃を得るという考え方自体は一つの正解だが、高額ブランドの場合、生産ロット数が小さい。
多数の工場がそれで食うことは不可能である。

となるとミドル層も買えるくらいの中価格帯国産品という取り組みも必要ではないか。
鎌倉シャツやエドウインの価格帯である。

この価格帯になると購買数量は格段に増えるから生産ロット数も大きい。
となると、それで生計を立てられる工場は増える。

こういう考え方の取り組みも国内の製造加工業が生き残りたいから必要ではないだろうか。
小ロット生産の高額ブランド一辺倒の考え方だけでは国内の製造加工業は成り立たない。




この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ