ファッション専門学校で学生に話したことを改めてまとめてみる。
日頃から実践的なビジネスに携わっている方々は当たり前のこととしてとっくに理解しておられると思うので、読み飛ばしてもらえばありがたい。

昨年春ごろから相対的に洋服の価格が上昇している。
その理由は3つある。

1、円安基調
2、原材料費の高騰
3、アジア諸国の人件費の上昇

である。

これが3つとも重なっているから値段を上げざるを得ない。
それはブランド側が自社の利益を変わらず確保するためには必要な措置である。

経営者によっては自社の利益を少し削ってでも店頭販売価格を現状維持しようと考える人もいる。
それは経営判断であり、他者がとやかくいうことではない。
ただし、利益を少し削ることはできても大幅に削ることはできない。
それではブランド側が成り立たなくなる。

例えば店頭販売価格5000円の洋服があったとする。
この原価率は30%だとすると、1500円である。
残り3500円が粗利益ということになるが、この中には経費が含まれている。

店舗や本社事務所の家賃、人件費、物流費、通信費、店舗で使うショッパーなどの備品代、水道光熱費、手数料などである。

これらの経費を引いたのが、利益ということになる。

利益を増やしたければ、製造原価を下げ、人件費や家賃などの経費を下げれば利益は増える。
ただし、昨今の風潮ではブラック企業と呼ばれることになりやすい。

製造原価を下げるということは、粗悪で廉価な材料を使い、工賃を限界以上に引き下げれば実現できる。
経費を下げるには固定費と呼ばれる人件費と家賃が一番下げやすい。
低賃金で従業員を働かせ、安い物件に事務所や店舗を移転すれば良い。

物流費や手数料も交渉次第では何%か引き下げることは可能だし、水道光熱費も節約に徹すれば少しは引き下げられる。

これを全部実現すればブラック企業と呼ばれることになるだろう。
しかし、やり過ぎなければこれは堅実な経営手法と呼ばれる。

もう一つ利益を増やす方法がある。
それは同じ原価で作った商品をさらに高く売ることである。
例えば売価を15000円にするとか、15万円にするとかという手法である。

原価1500円の物を15000円とか15万円で売れば、経費を引き下げずに利益は増える。
これがいわゆる高級ブランド、ラグジュアリーブランドの考え方である。

現実的には原価1500円ではないし、経費もかなり多く使っている。
店舗も備品も広告宣伝費もそこら辺のブランドとはケタ違いである。だから、高額での販売が必要となる。
卵と鶏の議論みたいにどちらが先かわからなくなるのだが(笑)

こういう話をすると、高額ブランドは詐欺まがいかという感想を持ってしまうが、如何に値打ちを伝えて高く売るかというのはブランド戦略であり、広報販促活動である。
工業的物作りとは別の話となる。

そこで学生たちに尋ねてみた。

「仮に、クリスマスに彼氏が『カルティエの時計』を買ってあげると言った場合、どこで買うことを想像する?」と。

すると学生たちは

「やっぱりカルティエのショップかなあ」と答える。

まあ、当然の答えである。

一方で、ドンキホーテという有名なディスカウントチェーン店がある。
ここでもラグジュアリーブランドの商品が売られている。
決して中国の広州市場から仕入れてきた格安のコピー商品ではない。
れっきとした正規品である。

ただし、正規店舗よりもだいたい2割5分~3割程度安い。

仮にカルティエの時計の正規価格が30万円くらいだとすると、ドンキだと最低でも7万5000円くらいは安いということになる。

単にカルティエの時計という物自体が欲しいならドンキで買った方がお得である。
浮いた7万5000円で高級焼肉も食べに行ける。

それを説明した上で、再度学生たちに尋ねてみた。

「彼がドンキでカルティエの時計を買ってくれたらどう思う?」と。

すると学生たちは「うれしいけど、やっぱりちょっと何かが違うと感じます」と答えた。

大阪のオッサンとオバハンなら間違いなくドンキで買って、「浮いた7万5000円で高級焼肉食べられるでぇ。得したわぁ」と喜ぶ。
筆者ならカルティエっぽい時計を2900円くらいで買う。

学生たちも「ガメツイ町」大阪の子供たちだからドンキで買うことにコストメリットを感じている。
しかし、やっぱりどこかに違和感も覚える。

これが「ブランドの力」というものである。

もし東京の女性たちだったらもっと抵抗を感じるのではないか。

単に「カルティエの時計」という物自体が欲しいのだったら安いところで買えるに越したことはない。

でもそうではなくて、物ももちろん欲しいのだろうが、カルティエの店で買うということに満足感、憧れ、ステイタス性を感じるということである。
大阪の専門学校生からして、そこに一応の魅力を感じているということである。
そうでないと、ドンキに連れて行ってもらって満足しているはずだし、浮いた7万5000円で焼肉か寿司でも食べに行くことに違和感は覚えないだろう。

このカルティエの例え話は、エクスマの「銀座カルティエ事件」から引用している。

興味のある方は全文をどうぞ。

1998年12月24日 銀座カルティエ事件
http://ameblo.jp/ex-ma11091520sukotto/entry-11417743914.html

これはカルティエだけでなく、エルメスでもルイヴィトンでも同じである。

アパレルブランドの活動というのは、本来はこの2つを同時にしなくてはならない。

1、原価と経費をシビアにコントロールして、確実に利益を残せる物作り・物流体制と販売体制の構築
2、より高い価格で買ってもらうためのブランド作り、ステイタス性の付与、イメージ作り

である。

前者は工業的、後者は商業的と言えるだろう。

しかし、実際のところブランド側も消費者側もこの2つの座標軸をすぐに混同してしまう。
むろん筆者もである。

前者だけの視点でやると90年代後半から続いている低価格化競争ということになる。
ブランドは良い品を如何に安く作るか、消費者は良い品を如何に安く買うかということが最大のバリューとなる。

後者だけの視点になると、粗悪品を超高額で売りつけるボッタくり商法に堕ちてしまう。

この2つを同時並行で実現する必要があるのだが、できているブランドは少ないのではないか。

先に挙げたような要因で500円や1000円でも店頭販売価格を上げなくてはならないなら、如何に高くても買ってもらえるようなブランド作りをするかということが急務だといえる。

このあたりを整理して考え直すと、また違った取り組み方法が見えるのではないかと思う。

冒頭に書いたようにビジネスを実践している方々は、常に考えておられる当たり前のことだろうから、こんな長文をわざわざ読む必要はない。

もし、整理できていないという方がおられて、読んだことで何かのきっかけになるなら望外の幸いである。