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南充浩 オフィシャルブログ

生地の技法やスペックだけでファッション製品は売れない

2015年9月7日 未分類 0

 オリジナル製品の開発に乗り出す産地の製造加工業者が増え、先週開催された東京ギフトショーにも多数出品していたようだ。

筆者がいう産地の製造加工業者はおもに生地製造工場、染色加工場のことである。

で、フェイスブックやツイッターを眺めていると、産地業者の東京ギフトショーの自社ブースが何軒か流れてきた。

生地製造工場は衣料品を企画したがるが、現在の市場動向でいうと、衣料品は売りにくく、雑貨小物類の方が売り易い。
東京ギフトショーは本来は、雑貨類の展示会なので、来場者もそちら寄りの業者が圧倒的に多い。
東京ギフトショーに出展する場合は、衣料品よりも雑貨類をメインにした方が受注を取り易いだろう。

そんなわけで多くの生地製造工場は、雑貨類と衣料品を展示するという形式をとっていたようだ。
もちろん、それらに使われている生地は自社で製造したものか、もしくは所属する産地内で製造されたものであることは言うまでもない。

その展示写真を見た感想だが、どうも、彼らは「生地そのもの」で製品が売れると考えているように感じられる。

とくに衣料品に関していうと、デザインとしてかっこよくない。
色柄もそうだし、形・シルエットとしてもかっこよくない。

この衣料品がディスプレイ用に作ったサンプルで、これを受注することを考えていないなら、それでも良いと思うが(50歩くらい譲って)、この衣料品も卸売りしたいと考えているならそれは無理だろう。

雑貨類にしてもそうである。
例えば、布小物、ストール、バッグ類、などがあるが、それらの形やディテールなどはどこまで考え抜かれたのかちょっと疑問を感じる物が多い。

ストールは、製品としては一番簡単である。
生地を細く切って、周りを縫えば完成する。
難しい型紙(パターン)は必要ない。芯地も要らない。
ある程度は色柄だけで勝負できる。

しかし、じゃあ、「売れるストール」というのはどういう物だろうか。

幅は何センチ、長さは何センチくらいがもっとも売れるのだろうか。
フリンジ(房)が付いていた方が良いのだろうか?ない方が良いのだろうか?

こういう細かいディテールと全体設計がストールといえども必要になる。

テキスタイル・マルシェでもストールを出品する業者が何社かおり、その販売を店頭で眺めていると、年代によって好む長さが異なることに気が付く。

全員がそうだというわけではないが、50歳以上の年配層の女性は細幅で短めのストールを好む傾向にある。
幅は数十センチ、長さは150センチ未満だろう。

反対に50代未満の若い層は、幅が広くて長いストールを好む。
幅は70~80センチ、長さは最低でも180センチは必要という具合だ。

じゃあ、一口に「ストールを作る」と言ってもどちらのターゲットに合わせるかによって製造する形は異なる。

そこまでのターゲット設定ができているのだろうか?

洋服になるともっと細分化されてしまう。
体型は人によっても異なるし、形もさまざまある。たとえば無地の紺の生地でシャツを作ったとする。

シャツといってもボタンダウンもあれば、ドレスシャツもある。
カジュアルシャツはドレスとは完全に仕様が異なるし、カジュアルの中にもワークシャツ、ウエスタンシャツ、ミリタリーシャツとさまざまなデザインがある。

紺の生地でミリタリーシャツを作ったとして何故、それを作ったのかである。

その生地はミリタリーテイストに適しているのか、そのミリタリーシャツのサイズ感はどれくらいにするのかという問題がある。

単に「普通のシャツではさみしかったのでミリタリー風の胸ポケットと肩章をつけました」では仕入れてもらう理由とはならない。

また年齢層によって多くの人間は体つきが異なる。
概して若い人は細めで、中高年は太目になる。
若い層をターゲットとするジーユーは総じて細めに作られているが、中年に向けたユニクロはジーユーより大きめに作られている。たまに例外もあるが。

じゃあそのシャツのターゲットはどこなのか?ということになる。

割合にゆったりと作られていれば中高年向けということになるし、細めなら若い世代向けということになる。

ダボっとしたシャツを作っておいて「若い人に買ってもらいたいです」というのはちょっとありえない。
反対も然りだ。細めのシャツを作っておいて「中高年向けです」とすると、よほどにニッチな層を狙っているとしか思えない。

過去に見た多くの産地ブランドがこのあたりの設計があいまいだった。

画像だけで判断するのは早計だが、流れてくる画像だけを見ると、その多くはこのあたりをあやふやにしか考えていないように見えた。

過去に見て鳴かず飛ばずに終わった多くの産地ブランドに共通していたと感じられることは、それは「生地」にあまりにも重点を置きすぎている点である。

生地製造工場だから生地に重点を置くのは当然なのだが、上に挙げたようなディテールやサイズ感などあまり考えずに、生地そのものの色柄だとかスペックだけで商品が売れると考えているようだった。

例えば「〇〇織りの〇〇柄だからこれはすごく希少価値がある」みたいなセールストークをしてくださるのだが、そのスペックは分かるが、それを製品として見たときはどうなんだ?ということである。

例えば形がすごくかっこ悪いとすると、そんな製品はいくら希少価値のある生地で製造されていても商品価値はほぼゼロに等しい。

〇〇染めで染めたアロハシャツなる商品が作られたとして、その〇〇染めの技法はわかる。色柄もそれなりに工夫しているのだろう。好き嫌いは別として。

じゃあ、形、シルエットはどうなんだといったときに、すごく不恰好だったり、極度にゆったりとし過ぎていたり、そんなアロハシャツは絶対に売れない。
仮にこれが1000円くらいなら間違って売れるかもしれないが、そういう産地製品は総じて高価格帯であるから、不恰好で高い衣料品なんて絶対に売れない。

ちょいとダサい形で1万円もするアロハシャツを「〇〇染め」だからとか「〇〇織り」「〇〇縫い」だからと言って買うような消費者はほとんどいないだろう。

「製品」に仕上げた時点で、「生地」としての価値だけでは売れなくなる。
かっこいい製品で「生地」が良いのはプラスアルファの価値になるが、生地が良くても製品としてかっこよくなければその製品には価値がない。

例えばすごく質の良いプラスチック素材があったとして、プラスチック素材としてはそれで売れるかもしれないが、これがガンダムのプラモデルに使用されたら、プラモデルとしてのかっこよさがないと売れない。

いくら「〇〇という最上級プラスチック素材を使用」なんて書いたところで、不恰好なガンダムのプラモデルなんて売れるはずもない。

飲食店でも同じだ。
「最上級の〇〇食材を使用」と書いていても、それを使って作られた料理が美味しくなければ、その料理の商業的価値はゼロである。

産地系ブランドには成功したところもある。
その成功事例は衣料品・雑貨品としてのデザイン性も必ずそこそこに良い。
仮に初年度は不恰好でも次年度以降は必ず修正してくる。

この修正力こそが成功した要因だろう。

産地ブランドの開発を志すなら、まずコンセプト作り、ターゲット設定、価格設定をし、その上で商品デザインに取り組まねばならない。
ここまでの過程をおろそかにしたままで、生地や染色加工のスペックや技法だけで売れるようなことは絶対にない。

これまで多くの産地ブランドが成功しなかった理由は「生地」の技法・スペックに頼りすぎたからだと考えている。
ぜひこの点を踏まえて今後のブランド設計に取り組んでもらいたい。

シャープ「液晶敗戦」の教訓
中田行彦
実務教育出版
2015-01-28




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