少し前のことになるが、はるやま商事のアイシャツのことがダイヤモンドオンラインに掲載された。

紳士服業界ではトップには及ばず、一時期は経営危機も噂されたこともある「はるやま」だが、最近は何かと独自路線を打ち出してそれなりに脚光を浴びている。

http://diamond.jp/articles/-/77409

ヒット商品が生まれにくいメンズビジネス服業界において、2008年の発売後、毎年180%程度の伸びを見せ、15年には販売数100万枚に到達する大ヒットを記録している。とのことである。

このアイシャツは合繊100%のワイシャツである。
はるやまのオンラインショップでデザインを見てもらうとわかるが、デザイン的にはちょいダサだと感じる。
派手なボタンホールの糸使い、不要なステッチ、などなどで、個人的には一昔前に流行ったクラシコイタリア崩れのデザインに見える。

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当時はトレンドに敏感な若手ビジネスマン層が着用していたテイストだが、それが今ははっきりと言ってオジサン層が愛用しているという印象がある。

反対にトレンドに敏感な若手ビジネスマンのワイシャツには変な色のボタンホールや不必要なステッチなどは入っておらず、むしろそのあたりはシンプル傾向にある。

せいぜいが、襟と袖口だけが白い生地で作られたクレリックシャツか、ストライプやチェックなどの派手目の柄物までである。

しかし、ターゲット層をオジサンに絞っているならこのアイシャツのくどいデザインはありだ。
それを好む層がいるのだからそこに向けて商品を提供するのはビジネスの基本である。

正しいファッションを啓蒙するという観点からすると間違いだが、ビジネスとしては間違いではない。
このあたりをごっちゃにすると、意味の分からない議論が繰り広げられることになり、現代の我が国で起きている論争のほとんどは違う観点の事柄をごっちゃにしてそこに情緒のスパイスを振りかけているだけである。

で、このアイシャツの特徴なのだが記事中にこう書かれている。

「様々探した中、サッカーの日韓ワールドカップの時に日本代表が着用したユニフォームで使用した生地を利用すればできなくない、とわかりました。この生地は織るのではなく編むことでできています。だからスポーツウエア同様に伸縮性が高く、通気性は(200mmの試験片に空気圧をかけるJIS規格上の試験で)200CCを記録しました。通常のシャツが約40CC前後ですから異次元の結果です。もちろん、元がスポーツウエアなので、ほぼシワにもならない。業界でよく使われる防しわの基準は、最高5.0点。通常の形態安定のシャツは3.5点程度なのですが、このシャツは最高の5.0点を記録しています」

とのことである。

サッカーユニフォームに使用された生地を使用しているのだが、なぜこの生地をしようすることになったのかというと、

事の起こりは、はるやま商事が08年の北京オリンピックにおける、JOCのオフィシャルパートナーになったことだった。彼はJOCの幹部から「記者会見の時にシワがよらない」「汗が消えるよう、吸湿速乾性に優れている」など、ハードルが高い要求をたくさんされた。それは「既存のシャツでは到底ムリ」なものだったが、治山氏はこれを好機と捉え「実現しよう。原料、糸、生地、縫製……何から何まで、今まで使っていたものに頼ってはいけない」と社員に伝えた。

という依頼があったからだ。

シワにならず、汗が消えるくらいの吸水速乾性のある生地というのは、綿では不可能である。
必然的に合繊にならざるを得ない。

しかし、サッカーユニフォームの生地は薄くてテロテロである。
あれをそのままシャツの形に縫っても「ワイシャツ」みたいにはならない。

難点もあった。スポーツ素材だと、木綿と違って繊維に「コシ」がない。パリッとせず、ジャージのように「タラッ」としてしまうのだ。これは当初、生地を分厚くすることでしか解決できなかったが、その後5年かけ様々研究し、薄い生地でもできるようにした。

「生地が薄いと、今度はアンダーウエアが目立ってしまう問題がありました。しかしこれも、肌と同じ色の非常に薄い裏地をつけることで、通気性を損なわず、目立たないようにできました」

という具合に工夫したそうだ。

この記事を読んで、はるやまの通販サイトで商品写真を見たが、感想は先ほども書いた通りに「ちょいダサ」だと感じた。
価格は5000円台であるが、今のデザインならちょっと筆者は買いたくない。

しかし、この使用されている生地には大いに興味がある。
汗っかきの筆者にとってはこの生地は夏場に着用してみたいと思わせるに十分なスペックだからだ。

これでもっとシンプルなデザインのシャツを作れば良いのにと思ってしまうが、そうなるとターゲット層が変更されるから安易には対応できないのだろう。

商品のデザイン性はさておき、こういう生地に対する開発・工夫というのはなかなか素晴らしいことではないかと感じる。

昨今、昔ながらの製造工程と風合いとだけにこだわったことを「高付加価値」だと勘違いしたファッション衣料品が増える中で、機能性を重視した生地開発に取り組む姿勢は評価されるべきだろう。

もちろん、昔ながらの製造工程が悪いわけではないし、風合いにこだわることも悪いわけではない。

切り口がそれ一辺倒になるというのはちょっとおかしいのではないか。
何となく店頭を見ていると高価格品になればなるほどそれ一辺倒になっているように感じる。

しかし、結局、また高価格品の同質化を招いて、いずれ潰し合いが始まることになるし、それは成功した先行ブランドの事例を単に後追いしているだけのことではないか。

もし、もっとシンプルなデザインのアイシャツが発売されたら、一度買って試してみたいと思っている。