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南充浩 オフィシャルブログ

原料から店頭までの情報共有システムの構築が必要

2015年9月3日 未分類 0

 昨日、国内の大手総合アパレル各社は、低価格製品を作るために安易にOEM・ODM業者を多用し、それがかえって店頭と製造段階の情報分断を促進していると書いた。

これはどういうことかをさらに詳しく説明してみたい。

ワールドなどの大手に限らず、この10年間でOEM・ODM業者への物作りの丸投げが国内アパレル業界全体に浸透した。
大手セレクトショップも大概が丸投げである。

ブランド側から「こういう企画がやりたい」という要望が出ている場合もあるし、そうでなくて企画段階から丸投げという場合もある。

それを工場にオーダーして、製品が完成するまでOEM・ODM業者が手掛ける。

ブランド側はその間ほとんど待っているだけであり、たまに「あの製品はいつ頃できあがりそうですか?」とか「納期間に合いそうですか?」という確認作業を散発的に行うだけである。
生産ラインとの直接のやり取りはOEM・ODM業者が行うのみである。

当然のことながら、これでは店頭が次回投入商品の詳細など把握できているはずがない。
またブランド側も製造工程についてはほとんど把握していない。

もちろん、ブランド側も店頭も使われている素材のことなどまったく知る由もない。
せいぜいが下げ札に書かれた組成を知っている程度である。
もし、下げ札に嘘を書かれていたら一発でアウトである。ブランド側だって素材を把握できていないのだから、書かれた内容を信じるほかないのである。

これが露骨に表面化したのが、某大手セレクトショップの「カシミヤ混0%」事件だろう。

カシミヤ70%混と表記されていた商品にカシミヤは一切混じっていなかったという伝説の事件である。

製造業者の申告をそのまま信じて下げ札に表記した結果である。

一方、ユニクロやグローバルファストファッションは素材原料から店頭までの情報が一気通貫である。
物流の情報共有化も進んでいる。

どういう原料素材を使って、どこで今、どれくらいの量が縫製されていて、進捗率はどれくらいか、そして出来上がった商品は今どのあたりを移動しており、いつごろに自社倉庫に納入されるか。

この情報がすべて把握されているのである。

一方の大手アパレルやセレクトショップは、納入日は把握しているものの、それ以外はOEM・ODM業者任せである。

「9月10日に入荷予定になってたあの商品大丈夫?」

と尋ねるくらいしか把握する手段を持っていない。

OEM業者の「それなら、明日、〇〇工場から出荷の予定です」という答えを信じるほかないのである。

こう見ると、優劣は一層はっきりする。
どちらが消費者にとって買いやすいブランドであるか。

ブランドとしての運営もどちらが科学的で効率的かはいうまでもないだろう。

大概の国内アパレルはこれほどまでに情報が分断されており、それは2000年代に入ってからさらに輪をかけてひどくなったといえる。

その上で、国内アパレルの多くは見た目の低価格化に追随しており、分断された情報の中で、どこを削れば製造原価が下げられるかということしか考えないのが現状である。

その一つが過剰な縫製工賃の削減であり、店頭販売員の低賃金といえる。
さらにいえば、生地代の削減であり、デザイナーをはじめとする企画職を雇用しないことも製造原価削減の一環である。

また帳簿上の値引きに異様にこだわるという悪いスタイルを身に着けた人もいる。
例えば、「製造費を1枚あたり10円値引く」みたいなことである。
もし仮に、このブランドが1万枚製造していたとしても10万円の値引きにしかならない。
それでも1万枚ならその気持ちはわからないではない。

今、国内アパレルの製造量は極端に減っており、100枚以下というのも珍しくない。
仮に100枚製造したとして、1枚あたり10円を値引いたとして、削減金額の合計はわずか1000円である。
1000円を削減することがブランドや会社にとってどれだけの利益を与えるというのだろうか。
そういう担当者は毎日1000円くらいを昼食やらお茶代やらで使っているのではないか。

それは担当者の上司に対する意味のないポーズにすぎないのではないか。

こういう状況にある国内アパレルとグローバルファストファッションのどちらが根本的な体力があるかというと間違いなく後者だろう。

国内大手アパレル各社は不振の影響から、ひとまずリストラによる人員削減で赤字を減らそうとしている。
もちろんその処置は仕方がない部分があるが、次にやるべき施策が見えているのだろうか?
目先のトレンドや上っ面のブームを仕掛けたところで、根本的に何も変わらないのであるなら、トレンドやブームが廃れたら同じことの繰り返しになるだけである。

そのことをアパレル各社の経営者は理解しているのだろうか。

一気通貫による原料から店頭までの情報共有システムを構築できないことには大手アパレル各社の根本的な体質改善にはならないだろうし、現在そこそこに好調が伝えられている大手セレクトショップもすぐに大手アパレルの不振の後追いをすることになる。

リストラは決して人員削減をしたらお終いという作業ではない。
リストラの本来の意味であるリストラクチュアリング(再構築)に取り組むべきである。




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