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南充浩 オフィシャルブログ

大手総合アパレルの劇的な復活は難しい

2015年9月2日 未分類 0

 大リストラを発表していたTSIホールディングスの早期退職に528人が応募したという発表があった。

TSIホールディングスの希望退職者募集に528名が応募
http://www.fukeiki.com/2015/09/tsi-cut-528-job.html

退職日は8月31日だからもう全員退職していることになる。

ワールドの早期退職希望者の退職日は9月下旬である。

筆者が業界紙記者となったのは97年だが、そのときに大手とされていた総合アパレルは現在、軒並み凋落している。

ワールド
TSIホールディングス(サンエーインターナショナル+東京スタイル)
三陽商会
オンワード樫山
イトキン
ファイブフォックス

である。

この中で最も業績がマシなのがオンワード樫山だろう。
それでも減収減益である。

彼らの凋落の直接的原因として2008年のリーマンショックが挙げられることがあるが、それは事実とは異なるのではないか。
すでにピークアウトしていたところにリーマンショックが起こり、凋落が顕在化した。そのように考えている。

仮にリーマンショックがなかったとしても2010年ごろには凋落が顕在化したのではないかとも思う。

彼らのピーク時は95年~2005年の10年間ではなかっただろうか。
仮にリーマンショックが凋落の直接原因だと仮定するなら、ピークは97年~2008年といえるかもしれない。

いずれにせよ、ちょうど10年間が彼らの最盛期だったといえるのではないか。

よく「ビジネスモデルの寿命は10年周期」と言われるが、大手総合アパレルはまさしくこれが当てはまる。

値札に記されたバーコードを読み取り、そのデータと蓄積し科学的に分析できるPOSレジシステムと、そのデータを基に速やかに商品の補充と新規投入がなされるQRシステムの2つを柱としたビジネスモデルの寿命は95~2005年の10年間だったということになる。

そういえば、筆者が94年から働き始めた低価格衣料品チェーンでもPOSレジは導入されていた。
そのときは、最新機種で、新しい物好きの当時の社長が導入を決めたのだと聞いている。
おそらく今のPOSレジはもっと高度化しているのだろう。

いわゆるスーパーマーケットのテナントインしていたようなチェーン店でも94年の時点ですでにPOSレジは導入されていたということである。

それまで勘と度胸とどんぶり勘定でなされていた商品の追加補充が、初めて科学的データを基に行われることになった。

2005年あたりから各社のブランドに勢いがなくなってきたように感じた。
それはあまりにも同質化が進んだせいなのではないか。
ファッションに興味のない筆者の目からすると各社のブランドはどれもこれも同じように見えるようになった。

これがちょうど2005年あたりから顕著になったように記憶している。

90年代後半~2000年代前半にかけてのワールドの各ブランドの見せ方、見え方は他社とは一線を画していた。

本来は2008年のリーマンショックを機に各社とも新しいビジネスモデルの構築を開始しなくてはならなかったのが、一様に低価格化と後追い企画に終始し始めるようになったように見えた。

98年からのユニクロの台頭、2008年の外資系ファストファッションの上陸によって、低価格がトレンドと感じられるようになった。

しかし、ユニクロやファストファッションの本質は「低価格」だったのだろうか。
筆者は違うと思う。大手各社は本質が「低価格」だと判断したからこぞって低価格へ追随したのだろう。

ユニクロやグローバルファストファッションの本質は「低価格」ではない。
「低価格」で販売して利益が残るシステム構築そのものが本質であり、さらには原料から店頭までの一気通貫の情報システムに本質があったと個人的に見ている。

大手アパレル各社はそこまでの利益が残るシステムと、一気通貫の情報システムが構築できたのだろうか?

現状はできていない。
ワールドが一時期スパークス構想でやろうとしたような形跡はあるが、現在その構想はほとんど実働していない。

低価格化を追及し、そのために安易にOEM・ODM企業への丸投げを増やし、一気通貫のシステム構築どころか、かえって製造段階と店頭との情報分断を招いている。

業界には「ユニクロやグローバルファストファッションは工場に劣悪な環境を強いている」と非難する人がいる。
これはたしかにそういう事実はある。
しかし、日本の大手だって同じようなことを工場に強いていることもある。

先日、某アパレルが国内のカットソー縫製工場に「1枚200円で縫ってくれ」と依頼してきたことがあるそうだ。
1枚200円というのも破格に安いが、何人かの知人に尋ねると「もっと安い値段を提示されたこともある」という答えが返ってきた。

これが現実であり、高価格なメイドインジャパン製品は、実はとんでもなく安い工賃で縫製されている場合があるということであり、国内アパレルだってグローバルファストファッションを決して批判できる立場にあるわけではないということである。
いわば同じ穴のムジナともいえる。

一方、彼らに対して息が長いと感心させられるのがJUNである。

かつてVANと並び称されたほど古い会社である。
VANはあっけなくつぶれたがJUNは残っている。

先に挙げた数社がいわゆるアパレル業以外に目立った成果がないのに対して、JUNは飲食業など多角化展開に成功しており、ライフスタイル型提案企業へと変貌している。

この変貌こそが先に挙げた大手各社に決定的にかけていた能力であろう。

陳腐化した引用だが、「強い者が生き残るのではなく、環境に適応した者が生き残る」という実例だろう。

今後、先の大手各社が劇的に復活するような事態はありえないのではないか。




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