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南充浩 オフィシャルブログ

「安い物は売れやすい」という事実は動かせない

2015年7月14日 未分類 0

 日本の繊維製造業・加工業者からは、数年前の時点では「経済成長する中国へ売り込め」という掛け声が多く聞かれた。ただし、成功した事例はあまりない。
そもそもが、イトキンやワールド、オンワード樫山などの大手アパレルでさえ、何度も中国市場進出に失敗しているし、今も成功していない。
日本のアパレルで中国市場で店舗網を築けたのはユニクロとハニーズくらいではないか。

外国人観光客が増えると、今度は彼らに向けて売り込もうというする取り組みが増えた。

需要に対して供給しようという考えは理解できる。

ただし、日本の繊維製造業・加工業者が期待するほど外国人観光客は高価格品を欲しているのだろうか?
個人的にはすごく疑問だった。

実体験でいうと、天神橋筋商店街のバッタ屋にも多数の外国人観光客が来る。
国籍は中国、韓国、台湾、香港、タイ、インドネシアが多い。
来店して購入した彼らの多くは「安いから嬉しい」という反応を見せる。

バッタ屋の店頭で接している彼らもやっぱり「安い物は好き」なのである。

もちろん、高価格品へのニーズはあるだろう。
それはブランドステイタスのある商品や高スペック商品に限られているのではないか。

ずっとそう感じてきた。

ところが、国内の繊維製造業者・加工業者、国内アパレル企業からは、

「彼らは安心・安全を求めている」
「高額商品を喜ぶ」
「日本製だから売れる」

という声をよく聞く。

正直なところ、「本当なのかな?」という疑問を感じていたのだが、先日こんなアンケート結果が報道された。

中国人観光客の7割は訪日前に購入商品を決定/日本“らしさ“より、“日本の方が安い”重視【博報堂調査】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150713-00000004-sh_mar-sci

詳しくは記事本文をお読みいただきたい。

購入に重視する点を聞いてみると、「安全・安心であること(54.2%)」「コストパフォーマンスが良い(47.9%)」「価格がリーズナブル(46.5%)」という点が高く、「日本お土産の定番(31.7%)」や「『Made in Japan』である(25.1%)」「母国では買えない日本ならではの商品(18.8%)」といった日本ならではの商品化どうかのポイントが低く、中国人観光客にとっては品質の高い製品をいかに安く購入できるかが重要となっている。

とのことである。

アンケート調査というのは、質問内容の設定によって随分と簡単に答えを望む方向へ誘導することができる。
大学の社会統計学の初期の授業でそう習う。
だから結果をそのまま鵜呑みにすることはできないが、ある程度の参考にはなる。

記事によると、購入で重視する点は単独では、

「安心・安全」である。
それが54・2%いる。

しかし、「コストパフォーマンス」も47・9%いるし、「リーズナブル」も46・5%いる。
しかも両方合わせると、90%以上にもなる。
おそらく重視する点を複数回答できるのだろう。

「日本製であること」を挙げているのは25・1%だし、
「日本土産の定番」は31・7%、「日本ならではの商品」は18・8%である。

低い数字とは言わないが、高い数字とも言えない。

アンケート結果からは、重視する点は

1、安心・安全
2、コストパフォーマンス
3、リーズナブル

だと読める。

となると、観光客に向けてはどういう製品を売り込めば良いかは誰でもわかる。

安心・安全であって、しかもリーズナブルでコストパフォーマンスの良い物である。

言葉にすると日本の消費者のニーズとほとんど同じなのではないか。

リーズナブルは安い物というより、割安感のある物と考えた方が良いだろう。
コストパフォーマンスも同じだ。単に安い物ではなく、品質・性能の割には安い物である。

だから、一概に「安ければよい」というわけではないが、「高いからよい」というのは完全にニーズを読み間違えているといえる。

繊維製造加工業者や一部のアパレルが思うような

「高い物を求めている」とか
「高品質を求めている」とか
「日本製を求めている」とか

いうニーズは少なくはないが、そんなに多くもない。

外国人観光客に多く売りたければ、そのニーズに適した物を供給するのが正しい方策だろう。

最近は価格の話をすると、「高価格品イノチ」みたいな製造加工業者(別名モノヅクリガー)、低価格品を異様に忌み嫌うファッション業界人(別名ファッションガー)、ミソもクソもまとめて日本製品ならなんでも礼賛する人(別名ニホンセイヒンガー)が多数現れるので少々うんざりしている。

安い物が必ず売れるわけではない。
安い物が必ず売れるなら各アパレルブランドがバーゲンセール末期に投げ売っている製品はすべて完売できるはずだ。
ところが実際は相当数売れ残って結局正月の福袋に混ぜられたり、アウトレット店へ流されたり、産業廃棄物として処分されたりしているわけである。

しかし、安い物が売れやすいことも事実である。
それは食品でも家電でもなんでも同じであり、衣料品だけが別物でありえるはずがない。

安い物が売れやすいことは大前提であることを踏まえて、安く売りたくない・安く売れないのなら、どうやって「高く」売るかを考えなくてはならない。

前提から自分の願望、希望、妄想、空想に基づいて戦略を組み立てても当たるはずもない。
たまには当たることもあるが、それはいわゆる「まぐれ当たり」で、再現できる確率はゼロに等しい。

高額商品を否定するわけでもないし、低価格商品を礼賛するわけでもない。
しかし、「低価格品の方が売れやすい・売りやすい」というのは厳然たる事実である。
これを事実と認識することに何でそれほどの抵抗があるのかまったく理解ができない。

高い商品を売りたいのなら、「低価格品の方が売れやすい・売りやすい」ことを認識しつつ、組み立てないと在庫の山を築くばかりで、それこそ国内の製造加工業者の首をさらに絞めるだけに終わってしまう。



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