繊維の製造加工業者や衣料品関係から「低価格品を好んで買う風潮が許せない」という意見をよく聞く。
なるほど、それは一面わからないではない。

しかし、そう発言する人たちだって、実際のところ工賃だったり、手間賃だったりを値切ることが珍しくない。
また食料品や日用消耗品はセール品を買うことも珍しくない。

結局のところ、だれだって物なり手間なりの価格は安い方がうれしい。

例えばコカコーラの350ミリリットルの缶は正規の値段なら130円である。
しかし、食品スーパーなどではそれが100円とか100円未満で売られていることがある。
また、格安自動販売機では100円で売られていることもある。

その中で好んで「日本経済をデフレから脱却させるために」と130円で買う人はまずいないだろう。
近くに格安販売機があればそこで買う。
スーパーに立ち寄る時間があればそこで買う。

筆者はガンダムのプラモデルを毎月作っているが、それだって同じだ。
先日、HGUCのガンキャノンを買ってそれをブログに書いたが、定価は1300円。
近所のジョーシンで買ったら900円強だった。
アマゾンで検索すると最安値は890円だった。

いくらファンでもわざわざ定価で買いたいという人はそれほどいないだろう。
むしろ、同じ商品が手間がかからずに安く手に入るならそちらの方で買うのが普通である。

昨今は食品スーパーではバナナが値上がりしたように感じる。
近所のスーパー万代では、138円、178円、198円、228円と4種類の価格でバナナがある。
最近は138円のバナナを見かける回数が少なくなったように感じている。

それはさておき。

バナナにもそれぞれ銘柄があるが、バナナの銘柄にこだわっている人はそう多くはないだろう。

売れ行きを見ても、138円か178円がいつも品薄になっている。
たまに128円とか99円とかに値下げすることがあるが、そのときはあっという間に完売してしまう。
味にはそれなりの違いはあるのだろうが、大きくは違わない。
ほとんど同じ物でも安い方で買うという人が多いのは当然である。
似たような物なら安い方で人は買う。

家電製品しかりである。

これがどうして衣料品だけには通用しないと、業界関係者が考えるのかが理解できない。

そういう業界関係者だって工賃なり手間賃や安ければ安いほどありがたいと考えているのである。

ウェブサイト構築料を値切ったことのない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?
ライターの仕事料を値切ったことのない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?
広告料を値切ったことのない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?

縫製工賃や染色加工賃を値切ったことのない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?
副資材類を値切ったことのない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?

筆者は値切らない関係者にお目にかかったことがない。

また値引きされた食品を買わない繊維・衣料品業界関係者がいるだろうか?

となると、結局、同じ物・似たような物なら「安い方が良い」「安い方で良い」と繊維・衣料品業界関係者自身がそう思っており、そういう行動をとっているのである。

なぜ、自分が携わっている物だけがそういう消費者心理・消費者行動から別であらねばならないと考えられるのかがまったく理解できない。

洋服を安くで売らないためには、価格以外の価値を創り出して、消費者にそれを伝えなくてはならない。
安い洋服の方が売れるというのは、価格以上の価値を創り出せてないし、創り出せたとしてもそれを消費者に伝えきれていないからであろう。

じゃあ、価格以上の価値ってなんだ?と考える必要がある。

その一つを示しているのは、短パン社長であろう。
良くも悪くも強烈な発信をして、強烈なアンチとファンを生み出している。
そのファンが高い彼の洋服を買ってくれる。

自身が企画するメンズブランド「Keisuke Okunoya」を昨年から発売し始めたが、Tシャツが7000円弱、ウールのカーディガンが17000円ほどである。

にもかかわらず、毎回150~400枚くらいの売れ行きがある。

彼のファンにはどうしても欲しいアイテムだろうし、彼のファンでない人には別にどうでも良いアイテムである。
ファンでない人は無印良品とかユニクロで十分代替可能である。

逆にいえば、それだけ熱心なファンが最低でも200人前後は常に存在するということである。

この発信が大手企業にすぐに取り入れられるかというとそうは思わない。
かなりのアレンジが必要だろうし、そのまま取り入れると肝っ玉の小さい経営者なら真っ青になるほどの炎上気味の反応が得られるだろう。

またスタート時からの合計売上高は3200万円ほどだと聞いているが、大手ならそんな売上高では満足できないだろう。
そういう意味でも発信方法のアレンジは必要である。

とはいえ、高額商品でも喜んで買ってくれる強烈なファン作りという施策は見習うべき点が多いのは言うまでもない。

蔦屋家電もその一例だろう。

実際のところどれほどの売上高が見込めるのかは、専門外の筆者には皆目わからない。
しかし、あの見事なディスプレイによって、値引きなしで家電を販売してみようという姿勢は見習う点があるだろう。
家電販売店といえば、あの決まりきった何の面白みもない陳列方法によって、他店との優劣は価格差だけというのが業界の常識だったからだ。

蔦屋家電の売れ行きは今後の結果を待たねばなんとも言えないが、そういう価格以外の価値の提供に挑戦している点は大いに参考にすべきといえる。

じゃあ、「低価格ガー」とか「安売りガー」と嘆いてばかりいる衣料品業者は、これほどに工夫を凝らしているのだろうか?身を削って発信しているのだろうか?残念ながら筆者にはまったくそうは見えない。
結局、価格以上の価値を創り出せてもいないし、お客に伝えられてもいない。
その結果が現在、衣料品業界が置かれている状況であろう。