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南充浩 オフィシャルブログ

アパレル業には4つの側面が求められる

2015年6月19日 未分類 0

 繊維・アパレル業界というのは、多面的である。
少なくとも4つくらいの面があり、それぞれの一面だけを実現しても成功しない場合が多い。
まれに一面だけで成功するブランドや企業もあるが、その成功は概ね長くは続かない。

まず、製造するという意味での工業的側面
次に販売するということでの商業的側面
トレンドに則ったファッション性がなければ売れないからファッション的側面
そして、金融的・経済学的側面

である。

人によってはもっと違う側面を発見するかもしれない。

少なくともこの4つがある程度噛み合わないことにはそのブランドなり企業は成功できない。

しかし、繊維・衣料品業界に属する人間の多くは筆者も含めて4面すべてに精通していない。
とくに金融的・経済学的側面が苦手である。

ただし、工業的側面・商業的側面・ファッション的側面の3つがクリアできれば中規模ブランドくらいまでには成長できる。

現実的に筆者がかかわった人たちを思い返すと、その多くは、どれか一つだけを持って現状を打破しようとして失敗している。

失敗は言い過ぎかもしれないが、それは事業の成長には結びついていない。

産地のおっさん連中は工業的側面だけで何とかしようとしている。
しかし、商業面とファッション性が伴っていないので、そんな商品は売れるはずもない。
衣料品とは物性面だけでは購買動機にはならないからだ。

グローバルSPAとして有名なZARAは自社縫製工場を所有している。
工場からの出発が原点であるから、我が国の国内製造業者だってZARAのようになろうと思えばなれる可能性はゼロではない。
ある有名な業界のコンサルタントが「国内業者さんからZARAのようなブランドが生まれることを期待します」と書いておられたことがあったが、筆者には単なるリップサービスとしか感じられなかった。

国内製造業者がそうなれるチャンスは過去に何度かあったがそれをモノにできたところは少ない。
これまでできなかったことが今後急速にできるようになるとは考えられないからだ。
それこそ経営者が更迭されるくらいでなければ。

閑話休題

衣料品ブランドに多いのが商業的側面かファッション性側面のどちらか、もしくはその両方で事業拡大を模索することである。

売ることとファッション性に長けていれば、当初はそれなりに売れる。
けれども商品が売れれば、必ず追加生産が生じるし、次シーズンにはまた一からの商品生産が必要になる。
このときに工業的側面が理解できなければ、追加生産も次シーズンの新商品も満足に生産できなくなる。

最近ではこれを知らなくても商社の製品事業部やOEM・ODM企業が掃いて捨てるほどあるから、金を出して彼らに頼めば商品は生産できるようになっている。
しかし、ブランド側がそれを理解しないまま依頼するから、わけのわからないオーダーが増えている。

例えば
「1ミリの縫製のズレも許さない」とか
「生地から別注生産したいが納期は1カ月後だ」とか
「ジーンズにウォッシュ加工を施しても少しの色ブレもダメだ」とか

そういう類の無理難題である。

少しでも生産のことを知っていればこんなお馬鹿な発言は出てこないはずである。

生産のことを知りすぎてはいけないというが、生産のことを知らなさ過ぎてもそれは害悪である。

さて、4つ目の金融的側面である。

良い物を作って上手く売っていても、それだけではなかなか事業は拡大できない。
そこから得られる利益なんていうのはたかが知れているし、その利益をいくら貯めてもなかなか事業に仕えるほどの額までには至らない。

そうすると、卸売り業態にしろ、SPA業態にしろ、小売店にしろ、大規模に拡大するためには金融の力が必要になる。
そしてそこの知識が筆者も含めて業界人のほとんどが無知である。
無知だから、「こんなカッコイイ商品を作っているブランドがどうして倒産するんだ?」みたいな情緒感しかないコメントが方々で湧き出すのである。

金融を活用できたブランドだけが大規模に成長できている。
そういえば、某セレクトショップは金融系の人間を副社長に引っ張ってきて、大手総合商社のバックアップを受け2000年代前半の上場を目指していたが、結局は非上場のままグダグダしながら、先ごろ大手グループに入った。
これなどは、金融を活用する気はあったが経営者自身がそれに適合できなかった例だろう。

最近ではそんな野心を持つ業界人も少なくなったが、もし、大規模に事業を成長させたいと考えるなら金融や経済学の勉強と知識は不可欠である。

大学では経済学部はあるが、ファッション専門学校にはない。
本来は専門学校でも教えるべきだと思うが、ファッション専門学校に進学する生徒を見ていると、こういうことにはまったく興味がなさそうである。

そういう意味では業界の求める人材と、業界に入りたい人たちの持つ性質とは著しく合致しないといえる。

ユニクロ対ZARA
齊藤 孝浩
日本経済新聞出版社
2014-11-20



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