製造工場が自社オリジナル製品を開発した場合、必ずと言って良いほど「スペック」を売りにする。
「日本製」は標準装備として、〇〇綿を使った〇〇糸だとか、力織機で織り上げた〇〇生地だとか、伝統の〇〇の技法を使ったとか、まあそんなことである。

しかし、いくら日本製だろうが、伝統の〇〇だろうが、消費者が物を購入する場合に重視するところはそこではない。
日本製で伝統の〇〇でも、モサっとしたデザインの製品は不要である。
しかもその価格が高額ならさらに不要である。

価値と価格が見合ってこそ物は売れるのであり、価値とはブランド力だったりデザインだったり、機能性だったりする。

製造業が立ち上げた自社オリジナル製品の価値はどこにあるのか?
そしてその価値は原価積み上げ方式ではじき出した価格に見合っているのか?

そこがはっきりしないと、いくらスペックを高くしても売れないものは売れない。
スペックがあるから売れるのではなく、売れた物をより安心させるためにスペックが存在するのである。
スペックは商品の裏付けである。

先日、レザーバッグ製造工場を営む福江さんに偶然に会った。
福江さんにはテキスタイル・マルシェでも何度もお世話になった。

大阪府和泉市に拠点を置くレザーバッグ製造工場でありながら、数年前からオリジナル製品の企画開発販売にも着手しており、少しずつではあるが着実に実績を積み重ねている。

とくにロングセラー商品となりつつあるのは、国内2位のデニム生地製造メーカー、クロキとのコラボレーションバッグシリーズだろう。
クロキの製造した28オンスの超ヘビーオンスデニムバッグで持ち手や各部にレザーをあしらっている。

オリジナル製品の販売することで、従来の製造業以外での立場が少しずつ理解できるようになってきたという。
そんな中で「一流と言われているブランドを見ていると、スペックを前面に打ち出していない。あくまでもデザインとかブランド力を打ち出している。職人がナンタラとか創業100何十年がナンタラというスペックは買った人を安心させるための材料にすぎないと思うようになってきました」ともおっしゃった。

これは非常に慧眼であるといえる。

製造業者のオリジナルブランドの多くが上手く行かない原因の一つに、デザインやブランド力を軽視して、製造スペックのみを強烈に推す。
しかし、そんなものを強烈に推されたところで要らない物は要らない。
ましてや価格は割高である。

さて、ちょっとここで、「Keisuke Okunoya」というブランドのTシャツを見てみよう。
たしか価格は6000円強だったはずである。
無地のVネックで白、グレー、紺の3色展開である。

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ユニクロのTシャツがだいたい定価1500円くらいで、値引きされて990円か790円か500円になる。
筆者の所有しているユニクロのTシャツは1枚も定価で買ったものではない。990円か790円か500円に下がってから買っている。

特定のデザインや色柄にさえこだわらなかったら1000円以下でTシャツは買える。
ユニクロや無印良品なら定価で買っても1500円とか1900円とかである。

そういう状況で6000円超えのTシャツは誰が何と言おうと割高である。

このブランドは短パン社長として有名(?)な奥ノ谷圭祐社長が企画したオリジナルブランドである。

フェイスブックやツイッターなどのSNSでのみ注文を受け付けるという変わった売り方をしている。
でも発送も手作業なら、そこに同封する手紙も手書きである。
デジタルなのかアナログなのかよくわからないブランドといえる。

で、このTシャツが900枚近くも売れた。

スペックだけでいうと、このブランドは今のところすべての製品が国産である。
原価率もだいたい40%は越えている。
しかし、それを全面に打ち出して販売しているのではない。

奥ノ谷社長が自身を全面的にアピールする。
そして奥ノ谷社長のファンがそれを買う。
奥ノ谷社長は「どうやったらかっこよく着こなせるか」「どういうコーディネイトができるか」を写真入りでいろいろと解説してくれる。

彼らはそれを評価して購入するわけである。

おそらく、製品が中国製だろうがベトナム製だろうが、ミャンマー製だろうが購入したのではないかと考えられる。

しかし、日本製であること、原価率が40%前後もあることなどの「スペック」は購入者をさらに安心させる材料となる。
「買って間違いなかった」と思わせる裏付けとなる。

製品販売におけるスペックの使い方というのはこうあるべきだろう。
とくに、製造業者がオリジナル製品を立ち上げる際には、このやり方を参考にすると良いだろう。