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南充浩 オフィシャルブログ

「ファッション」の定義が異なったままの議論が横行している

2015年4月8日 未分類 0

 一口に「ファッション業界」と言われるが、「ファッション」の意味する範囲が言葉を発する人によって異なるのが現状である。

例えば「ユニクロはファッションじゃない」と主張する人がいる。
これはこれで一面は正しい。

低価格・ベーシックを基調とするユニクロは「ファッション」ではないと考えられる部分がある。

一方で、大手新聞社やテレビ局のように「ユニクロはファッションブランドの一つだ」と考える人々もいる。
これもあながち間違いではない。
ユニクロだってファッション性皆無の商品を企画製造販売しているわけではない。
ユニクロはトレンドを研究して商品を企画している。トレンドが見事に反映される場合と、そうでない場合とがあるが。
また、ユニクロ商品をファッショナブルに着こなす人も存在する。

多くの人々は自分が所属する階層と好き嫌いによって判断を下しているに過ぎないのがほとんどではないかと、傍目から見ている。

作家とか独立系デザイナーと呼ばれる人やその階層に属している人からするとユニクロはファッションではないどころか、低価格ブランドの存在自体が悪だということになる。(もちろんそうは考えない人も存在する)

しかし、工業的に見るなら、工業製品は必ず低価格化するし、低価格化することで一般大衆に普及する。
テレビしかり洗濯機しかり冷蔵庫しかり自動車しかりパソコンしかりスマホしかりである。

なぜ洋服だけがその法則から外れた存在であらねばならないのだろうか?
洋服という工業製品はそれほどに特別視・神聖視されるなければならないのだろうか?
筆者はそうは思わない。洋服もテレビやパソコンと変わらない工業製品である。
とくに筆者が買える程度の価格の洋服は間違いなく工業製品である。

工業製品ではない洋服というのは、オートクチュールとかサンプル品くらいではないか。
しかし、そのオートクチュールを作るための生地は工業製品なのである。

フェイスブックでお友達がアパレルブランドを四つに分けて論じておられたので、自分なりの解釈を交えてかいつまんで紹介したい。

1、クリエイター
いわゆる作家とか小規模独立系デザイナーとかはこの範疇に入るだろう。

工業的に取り組むような「規模の経済」を目指す必要はなく、工芸的手法を上手く取り入れる事で「アート」要素のある製品作りを目指すべきだろう。
常に創造的提案(商品だけではなく)し続けてそれによる「ファン」の獲得構築が重要になる。
極端な言い方をするなら、500人の信者にも似た固定ファンができれば、生活ができるだろう。

小規模デザイナーなので生産ロットが小さい故に、店頭販売価格は高くなる。
仮に客単価が5万円だとして、それを毎シーズン500人の固定ファンが必ず1枚ずつ買ってくれたとすると、1シーズンの売上高は2500万円になる。
4シーズン展開するなると売上高は1億円である。

もし2人で運営しているならその2人分くらいの賃金は支払うことができる。

2、トレンドセッターとしてのアパレル
小規模工業的であり、これも「規模の経済」を追わないことが重要になる。
ただし、作家の作品とは異なり、ある程度のミニマムロットをこなすことは必要になる。
個人的には売上高30億円くらいまでの規模で高額商品を得意とするアパレル企業はここに属するのではないかと考えている。

3、バリューアパレル
工業化を前提とした中級品を展開する。
ジーンズ業界でいうならエドウインやリーバイスを含むかつてのナショナルブランドということになる。
一般アパレルでいうなら、ワールドやらオンワード樫山やらイトキンやらファイブフォックス、TSIホールディングスなんかはこの階層に属するといえる。
中流層をターゲットとしている。

4、ボリュームアパレル
徹底的に工業化し、大量生産による低価格ブランド。
ユニクロをはじめとする低価格SPAブランドはここに属する。
低所得者層を含む広い層に向けて商品を売る。

とのことだが、人によって何番までを「ファッション」に含むかがそれぞれ異なるのである。
異なるにもかかわらず、その定義の摺合せもないままに「ファッション」を論じるから話が噛み合わない。

1のみをファッションと考える人もいれば、1と2をファッションと考える人もいる。
その一方で1~4すべてをファッションだと考える人もいる。
もちろん、1~3をファッションとして考え、4だけを除外する人もいる。

その見方のどれもが正しく、それぞれに一理ある。

見た目だけのことなら、筆者は1~4まですべてがファッションだと考えてしまう。
15年くらい前までは4はファッションではなかった。
ユニクロの台頭が始まるまでは低価格ボリューム層は総合スーパーや紳士服チェーン店の独壇場だった。
そしてそれらの商品はファッショントレンドから外れていた商品が数多くあった。

ユニクロの台頭によって低価格SPAが増えたがいずれのSPAブランドもそれなりにトレンドを取り入れており、トップブランドと「見た目」においては差がかなり縮まった。

しかし、規模の経済からいうと、1・2と3・4は異なると言わざるを得ない。
市場規模や顧客数、商品の単価がまるで異なってしまう。

そのあたりを区別して議論しないと単なる好き嫌いの情緒論に終始してしまう。
感情のみに立脚した情緒論ほど非建設的なことはない。

個人的な結論からいうと、アパレル産業という括りで見るなら、4を完全撲滅することは不可能であると考えている。
1と2だけの世界とか、1~3の業態しかない世界というのはありえない。

家電業界を見ても1~4までそろっているのに、なぜ洋服だけが異なる構造を作れると考えられるのかが不思議でならない。

現在は4の層が優勢だが、この勢いが弱まるという時世は今後出現するかもしれない。
逆に1と2は発信が弱いのではないか。いや、今もっとも発信力が弱いのは3の企業群かもしれない。

そのあたりのバランスを少し変えることは各層のブランドや企業の努力によって可能だろう。

筆者は個人的に4がここまで優勢になったのは1~3がだらしなかったからではないかと考えている。

以前にも書いたが、3に属する大手アパレルの役員が「ユニクロでバカ売れしたあの商品と同じ素材をくれ」といい、そのアパレルの直営店の販売員が「ユニクロでバカ売れしたあの商品と同じ素材を使った商品なんですよ~」と接客しているのである。

4の独走を許した原因は、他の層のこういう姿勢にあるのではないか。

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