洋服の販売職を何度か経験したことがあるが、どれも低価格店ばかりである。
低価格店に来るお客は低価格品が欲しいと思っている場合がほとんどで、もし仮に店内に高価格品があったとしても滅多に売れるものではない。
これは何度も体感した経験である。

そういえば、つい先日も「3枚300円」の婦人下着のワゴン販売を行っていたところ、9枚をレジに持ってきたお客がいた。当然、こちらとしては900円になることを伝えたが、そのお客は酷くびっくりした様子で、「え?じゃあ3枚にする」と言って6枚をキャンセルした。
どうやら「3枚100円」だと勘違いしたようだ。

ちなみにこの3枚300円の商品は売れ残り在庫品を安く引き取ったとはいえ、ナショナルブランドの製品であり、1枚100円というのは破格値なのである。

それでも「3枚100円」を求めているお客からすると「高すぎる」と言う風に映るわけである。

売れない在庫品はどこかで値下げして売り切ってしまう必要がある。
いわゆる「損切り」というやつだ。
また、安売り品は集客の目玉にもなる。

だからセール品の存在は悪ではないが、それだけに頼り切るというのも危険である。
低価格で集まるお客は低価格が好きなお客であり、無料品に集まるお客は無料品が好きなお客である。
低価格店での販売を何件か経験した筆者からするとこれは事実である。

低価格品で集めたお客に高価格品を売るというのは至難の業である。
990円のカットソーがメイン商材の店で、20,000円のジーンズが売れるだろうか。
せいぜい売れても数千円のジーンズだろう。
ユニクロで30,000円のカシミヤセーターを売ることは不可能に近いだろう。

これと同じことをやって失敗したのが外食で言うならマクドナルドである。
100円マックで集めたお客に700円以上もするようなセットメニューを売ろうとしてきた。
100円マックで集まったお客は100円の商品が欲しい人たちであり、これに700円以上するような商品を売ろうとする方が無謀である。失敗しても当然である。

2月5日に発表された日本マクドナルドの2014年通期連結決算で、過去最大となる218億円の当期損失が計上された。
また1月度の月次売上高は前年同月比で38・6%減という落ち込みとなった。

この数年のマクドナルドの不振の大きな要因の一つには、低価格品で集めたお客に高価格品を売ろうとしたことがあると考えている。

昨日の東洋経済オンラインの記事は分析が妥当だと感じる。

マクドナルド「赤字218億円」、失敗の本質
食のトレンドに”置いてきぼり”にされた
http://toyokeizai.net/articles/-/59863

結論では食の安全、健康志向、ローカル志向にマクドナルドが気付いていなかったということが指摘されているのだが、その前段では

マクドナルド失墜の原因は、性急すぎたFC化と短期的なマーケティング施策の失敗に求めることができると考えている。

(中略)

ところで、2013年まで日本マクドナルドのCEOを務めていた原田泳幸氏(現在は取締役会長)が、就任後にリリースしてきた“新商品”は、基本的に米国やグローバルで成功したものの焼き直しが中心だった。具体的には、「メガマック」「100円コーヒー」「えびフィレオ」などである。いずれもそれなりにヒットはしたが、いずれも米国やグローバルでの成功事例をコピーして日本市場に投入したにすぎない。

商品アイデアからプロモーションのやり方に至るまで、あまりにも米国本社に頼りすぎていたツケが回ってきた。日本人の消費者が求めている日本発のメニュー開発を怠ってしまったのである。長期的な低迷の原因は、日本を起点としたイノベーションの不足にあったのではないか。

一時的には業績をV字回復させた原田氏ではあったが、結局は、マクドナルドという重症患者に対して、10年間の「延命の機会」を与えたにすぎなかったのかもしれない。

と指摘しており、この指摘は正しいと感じる。

繊維・衣料品業界でも低価格品で集めたお客に高価格品を売ろうとしている店、ブランドが多数ある。
いずれも考え違いをしている。
低価格品の売り出しを告知すれば、今までよりも確実に多数のお客が集まる。
しかし、そのお客は低価格品が好きなお客であり、本来店側が売りたいと考えている高価格品が欲しいお客ではない。

ファストファッションブームがピークだった2009年か2010年ごろ、新規オープンした店で、某ナショナルブランドのジーンズを無料配布したチェーン店があった。
この店は2年ほどで閉店撤退したが、これなどは考え違いの最たる例だろう。

なるほど、当日、お客は集まっただろうし、それなりにマスコミの話題にもなった。
しかし、それで終わりだ。
集まったのは無料が好きなお客だし、マスコミの報道はこれっきりである。
無料が好きなお客が有料で、しかも高額商品を買うはずがない。低価格品ならまだしも。

そこそこの規模のチェーン店ですら、こうなるのだから、小資本の個店でこういう販促手法を採ればどうなるかは火を見るより明らかだろう。

衣料品・雑貨は、食品とは異なり、一度買ってしまえばかなりの年数耐久する。
そういう耐久品を毎シーズン買ってもらうためにはどうすれば良いのか?
どういう店作りが良いのか?
どういう顧客作りをすれば良いのか?
と考えれば各店でおのずと見えてくる部分があるのではないか。

売れないから値引きする。
値引き販売はもう限界だから、使用素材の品質を下げて、縫製・加工工賃を叩くことで原価率を下げて、自社の利益のみを確保するという手法が主流となっているが、この手法では各工程が疲弊するばかりである。
そして各工程の疲弊はそろそろピークに達しようとしている。

低価格で集めたお客は低価格が好きなお客だという前提に立ってブランド作り、店作りをしないといつまでも「仮想敵はユニクロ」という状態から脱却できないのではなか。