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南充浩 オフィシャルブログ

ファッション専門学校の入学者募集手法の移り変わり

2015年1月26日 未分類 0

 昨年11月から、縁あって大阪ファッションアート専門学校という小さなファッション専門学校で毎月2回、講義を行っている。

http://www.ofa.ac.jp/

校名はずっと同じだが、3年くらい前に新オーナーが買い取って新規一転で再スタートを切った学校である。
だからまだ1年生が7人しかいない。

ファッション専門学校が氷河期を迎えているのに、買い取って再スタートさせるというのは何とも酔狂なことだと感じるのだが、乗りかかった舟なのでなんとか学生のためになるような内容を話したいと心がけている。

回り道をしてきた人もいるので一概には言えないが、多くの一年生は高校を卒業した翌月に入学している。
デザインの手法とかパターンの作り方などは筆者には教えることはできないので、必然的にビジネス関連のことになるのだが、小難しいビジネス理論は筆者にもよく理解できていないし、高校を卒業したばかりの学生にはもっと難解だろう。
そういうことはほかの先生方にお任せしてしまう。

そこで、

業界の大まかな構造だとか
現在、アパレルがこぞって活用するOEM/ODMについてだとか
アパレル企業や小売業の社内の役職についてだとか

そういうことを話している。

先日は、講義内の雑談で、正社員の待遇について言及した。
例えば、雇用保険についてだとか、そういう内容である。

そうすると意外に学生の食いつきは良かった。
そういえば、筆者も大学を卒業する際まであまりそういう話を耳にしたことがなかった。
きっとそういう講演や講義なども聴いていたのだろうが、筆者の生来の愚鈍さと、演者が噛み砕かずに話していたため、ほとんど記憶に残っていない。

次は有給休暇について話してみようかと考えている。

専門学校は2年ないし3年で終了する。
専門学校に入学する・させる目的としては就職できるためであろう。
しかし、高校を卒業したばかりの学生は待遇や企業の制度などあまりしらない。
おそらく興味もないだろう。筆者なんて大学を卒業するまで興味がなかった。

興味がないからといってそれを放置しておくと、わけのわからないブラック企業にひっかかって良いように使われてしまう。
企業個々に待遇制度は微妙な差があるとはいえ、そういう待遇の最大公約数的なことを教えることはそれなりに意味があるのではないかと考えている。

ところで、先日のレモネード伯爵(ペンネーム)の専門学校の分析記事は秀逸であった。

http://www.apalog.com/lemonade/archive/35

ファッション専門学校の入学者募集トレンドの移り変わりをまとめている。
詳細は原文をお読みいただくのが良いだろうが、キモの部分を以下に引用させていただく。

①「すごいパンフレット」の時代(1990年代)

80年代のDCブランドブームでは入学定員が満たされていた服飾専門学校だったが、そのブームが去り、90年代に入って「すごいパンフレット合戦」を繰り広げ始めるようになった。それまでモノクロで固いイメージのあったパンフレットのクオリティアップを図り、高品質な用紙を使ったり、一流モデルを使ったり、オリジナルDVDを入れたり、まるで雑誌のようなパンフレットセットを贈った。地方の高校生は都会から届いた豪華なパンフレットに狂喜したに違いない。この頃から地方の服飾系専門学校が淘汰され、東京・大阪に学生が集中した。印刷業者や不動産業者はさぞかし儲かったことだろう。

②「個人リストと雑誌ブランディング」時代(2000年代)

2000年代に突入すると携帯電話が若者に普及。これに伴って個人リストを手に入れたものが入学募集を制覇する時代に突入した。資料請求者に対して、前述したパンフレットはもちろん、その後のフォローとしてメルマガ、DM、電話などあらゆる情報を送ることで入学者の獲得につなげた。オープンスクールの増発、バスツアーによる地方出身者の囲い込み、入学前プレ授業による入学辞退の阻止などの営業施策が次々と開発された。

またこの時期からファッション雑誌の活用も増加。雑誌社と提携し、学校名記載の読者モデルの掲載や学校主体の記事広告を増発。就職実績を誇るというよりは、お洒落な在校生をピックアップして”学校に通いたくなる”ようなイメージアップを図った。個人リストを獲得するための「専門学校はがき一括請求」や「専門学校ポータルサイト」が一時代を築いた。

しかしこのあたりから、入学前のイメージと入学後のイメージのGAPが発生し、一部の学校ではクレームが多発。

③「脱パンフレット・ウェブ全載せ」時代(2010年~現在)

スマートフォンの普及により、若者はウェブサイトおよびSNSでの情報取得がメインとなる。豪華なパンフレットは効果を発揮しなくなり、若者はウェブサイト上ですべての情報を欲しがるようになった。かつては資料請求をさせるために、ウェブサイト上に学費の詳細を載せことはタブーとされてきたが、現在はすべての情報を開示するのが常識である。学校によっては入学願書までダウンロードできるようになっている。過度なメルマガ配信、DM郵送、TELアプローチはかえって学校のイメージダウンとなった。

またSNSが購買の決定権を左右するようになる。入学者・在校生・卒業生がつながるようになり、各校とも過剰なイメージ戦略やあおりができなくなった。つまり「本当のこと」を正しくPRする必要が出てきた。ブログやSNSの更新が入学募集に不可欠になった。ちなみに雑誌社は、メイン顧客(カモ!?)だった専門学校からの出稿が激減したことが一部要因となり、次々と廃刊に追い込まれていった。

ちなみにスタイリストやファッションライター、ゴスロリ系のデザインコースなど、就職先が極端に少ない特殊コースに学生が集まるようになったのもこの時期の特徴である。

④「残存者利益」の争い(新時代~)

前述したように現在の服飾専門学校の入学募集は熾烈である。もはや販促やPRを強めるだけでは入学者の確保が難しくなっている。入学希望者の絶対数も減り、まさに生き残ったものだけが残存者利益を享受する時代に入ったといえるだろう。ここにきて高校とのパイプを持つ老舗・大手の専門学校が強さを発揮している傾向にある。弱小スクールは残された時間をどう生きていくかを考える必要があるだろう。ただし学校法人は国からの援助があるので、株式会社立スクールよりは淘汰は遅くなることが予想される。

とある。

この時代によるトレンド変遷の分析は的を得ている。

そして各年代のトレンド最盛期には、前時代のトレンド手法はまったく効果がなくなっている。
筆者は2008年から1年間、某専門学校で広報を務めたことがある。
専門学校の広報というのは、純粋な意味での広報業務のほか、入学者募集という業務がある。
入学者数が低位低迷する専門学校というのは、この入学者募集の時代ごとのトレンドに乗り遅れた学校がほとんどである。

筆者が務めた時代は②の終わりごろであるが、雑誌とタイアップ記事を作成するためには莫大な費用が必要である。料金設定は雑誌によって異なるが、見開き2Pの場合、1回につきだいたい150万~200万円強が相場である。
年に4回やれば少なくとも1000万円弱のカネが必要になる。

入学者数が低位低迷しているからこのカネを捻出するのが厳しい。だから出稿を減らす。さらに入学者数が減るという悪循環スパイラルである。
そしてこのころすでにウェブ時代が隆盛を迎えつつあったが、各専門学校は伝統的に情報開示を極度に嫌がり、かなり消極的だった。

引用記事にもあるが、入学金や授業料を自校ウェブサイトに掲載していた学校は2008年当時、知る限りでは存在していなかった。

しかし、ぼったくりバーやぼったくり居酒屋の例もあるわけで、寿司屋の時価じゃないんだから授業料をウェブで公表できない体質というのはいかがなものかと多くの人が感じても不思議ではない。
ちなみに生徒数は今でも多くの学校が掲載していない。
一方で、学校の年度ごとの収支報告は掲載されるようになった。これは文部科学省側の指導もあったのだろうが、一歩前進といえる。

筆者は②の末期に在籍したが、専門学校の多くの年配層は①の手法に固執していた。また、①の手法以前の時代の手法に固執する年配層も少なからずいた。
いずれも時代遅れの手法であり、そんなものが効果を発揮するはずもない。

また今は③の時代だが、②の手法は最早通用しない。
ファッション雑誌の多くは下り坂であるし、ファッション雑誌の影響力は低下している。
最早若者がファッション雑誌を読んでいるかどうかすら怪しく、ファッションコーディネイトブログやWEARなどのファッションコーディネイトアプリを参考にしている若者も多いと聞く。

今の時代に②の手法に固執している経営者や幹部がいるとするなら、それは時代遅れで変化に対応できていないということになる。

このブログ主は今後を④の残存者メリットの時代になると予測しており、これにはまったく賛同する。
少ないパイを独占・寡占するために専門学校間での競争が激化し、支え切れなくなった学校は今まで以上にどんどん淘汰されていくと考えられる。

ブログ主がいうように、今後もファッション専門学校はゼロにはならないだろうが、ファッション・アパレル産業が若者にとってあこがれの職業では最早ないので、今後も厳しい生き残り合戦が続くことになるという指摘にも激しく同意する。

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