先日、東大阪市石切にある福井プレスという染色、色止め、洗い加工の工場を見学させてもらった。

東大阪の石切というところは生駒山が近く、この山を越えると奈良になる。
最寄りの新石切駅からは少し離れているが、石切劔箭神社(いしきりつるぎやじんじゃ)という有名な神社がある。駅前にも神社の名前が記された大きな看板などがある。

この神社には物部氏の祖と言われる饒速日尊(にぎはやひのみこと)がお祭りされている。
古事記や日本書紀の神武東征の段で、神武天皇が畿内に上陸した際、生駒山を越えて奈良に入っている。
その際、生駒山のふもとで饒速日尊の子孫たちと結んでおり、この地は古くから物部氏の根拠地であったことがわかる。

さて、このブログは「街道をゆく」ではないので詳細は歴史に詳しい方に譲るとして、この福井プレスという工場はさほどに大きな工場ではない。
工場としては小さい部類に属する。

http://fukuipress.somenaosiya.jp/

もともとは3代続くクリーニング屋さんで、今の社長が2000年ごろから新たな業態として創業したそうで、家業のクリーニング屋さんは社長のお兄さんが継いでおられる。

この小さな加工場の主力顧客は、アパレルと個人客だそうだ。
まず、アパレルは何をここに注文するのかというと、

1、サンプル製品の染色、洗い加工
2、アジア製衣類の色止め、染め直し、洗い直し

がほとんどだそうだ。

1のサンプル製品の染色、洗い加工はわかりやすいだろう。

展示会や受注会向けのサンプルに染色したり洗い加工を施したりすることである。

2のアジア製衣類の色止め、染め直しとはどういうことかというと、
中国やアセアン、インド、バングラディシュあたりで製造された衣類の中には国内に入ってきてから変色・退色・日焼け・色落ちなどが発見される場合がある。
これはあまり報道されることがないが、一定量必ずそういう商品がある。

その場合、それを製造させたアパレルが何らかの処置を施すことになる。
その一環として、染め直し・色止め、洗い直しなどを再度行うという選択肢もある。

福井プレスにはそういう案件が持ち込まれる。
小さな工場なので大量には無理だが、2000~3000枚くらいまでなら対応できるそうだ。

写真

(福井プレスの工場)

もう一つの個人向けの染め直し業は3~4年前から始めた。
これは単純に高額だったり、思い入れが強かったりした個人の衣服を染め直すという仕事である。
お気に入りの衣類も長年着用すれば色あせるし、変色もする。
また汚れがひどくなる。
筆者のように投げ売り品ばかり購入していれば、その都度捨ててまた新たな投げ売り品を購入すれば良いが、非常に高価な衣類だったり、思い出の品だったりするとそれもなかなかしづらい。
そういうときに染め直して延命させる。

この受付窓口として「染め直し屋」というウェブサイトも立ち上げている。

http://somenaosiya.jp/

料金システムがちょっとおもしろくて、通常の染め直し屋では1着あたり〇〇円という風に設定されていることが多い。
例えば、シャツなら1着2000円以上、コート1着3000円以上、という具合だ。

ところがここは、一律どんなアイテムでも、一色ごとの基本料金5000円である。
そしてアイテムごとに重量で料金が異なる。
シャツなら200グラムで400円、ワンピースなら300グラムで600円という具合である。

一見高そうに思うが、染める色をまとめるとかなり割安になる。
黒に染めるアイテムを10枚くらいまとめたとすると、その10枚にかかる基本料金は全部合わせて5000円きっかりである。10枚でも1枚でも基本料金はトータル5000円のままである。

で、1枚ごとの価格は数百円~2000円くらいが中心なので、10枚で10000円くらいということになる。
基本料金と合わせると15000円くらいで10枚が染め直されることになる。

ただし、これは青、これは黒、これは赤というような染め方をするにはそれぞれに基本料金5000円が必要になる。あくまでも1色あたりの基本料金が5000円であるから、数枚くらいまとめて同じ色に染めると割安になる。

現在は、家業のクリーニング屋と同じくらいまで福井プレスの売上高を伸ばすことができたそうである。
もちろん、大手加工場のように年商何億円と言う規模ではあるまい。
家業のクリーニング屋だからそんなに大きな売上高ではないと考えられる。けれども3代に渡って継承されてきた仕事なので数十年間一家を支えられる程度の売上高は安定的にあると見るべきだろう。
それが新規事業を加えるとほぼ倍になったということだから、家族経営の零細企業としては上出来の首尾と言っても良いのではないだろうか。

新規事業の福井プレスが売上高を増やすことができた最大の要因は、ウェブサイトの設置だった。
何しろ、今の社長がご自身で「創業当時は人を雇う余裕もなく、外回りもできなかったから営業活動がほとんどできなかった。今のお客さんはみんなウェブサイトを見て問い合わせてきた人・業者ばかり」と認めておられる。

筆者は常々このブログで「製造加工業者こそ、自社ウェブサイトを立ち上げるべき。それができないならブログを設置すべき」と主張していたが、こんなブログを書くはるか以前からそれを実践しておられたというのは社長の慧眼だったというべきだろう。まあ、もしかしたら必要性に迫られただけなのかもしれないが。

それでもウェブによる自社情報の発信は効果があるといえる。

昨今は円安と中国の人件費高騰によって、衣料品の製造が国内回帰している。
そのため、国内工場が満杯となって製造できないブランドも現れつつある。
しかし、その一方で仕事が無くて困っている国内製造加工業者も数多くあると聞く。

ブランドやOEM業者にそのことを伝えても「調べてもそういう工場の情報が出てこないから発注のしようがない」と口をそろえる。

彼らが最初に何で工場を調べるかというと間違いなくネット検索である。
「縫製工場」とか「染色加工場」とかのキーワードでネット検索をするのが常識となっている。
その際にウェブサイトやブログが無ければ、検索画面には表示されない。
表示されないというのはブランドやOEM業者からすると存在しないのも同じだから、永遠にその工場には注文が来ることはない。
そういうことである。

仕事が無くて困っている製造加工業者ほどウェブサイトを立ち上げるべきなのである。

それで着実に売上高を伸ばした福井プレスという実例がある。
ウェブサイトすら立ち上げずに仕事が無いと泣き言を言う製造加工業者はそれこそ自己努力が足りないと言わざるを得ない。時代に対応できない業者は残念ながら淘汰されるほかない。