MENU

南充浩 オフィシャルブログ

ビジネスとして成り立たない東コレブランド

2014年12月3日 未分類 0

 独立系のデザイナー・作家をめぐる環境は厳しさを増していると感じる。
断続的に何度かにわけて考えてみたいと思う。

東京コレクションのステージに登場するデザイナーズブランドは、本人たちや業界関係者が考えているよりも知名度が低い。
これは以前にも書いた通りだが、先日、ある小さな専門学校で7人の学生に向けて講義をする機会があったので、「東京コレクションに出展しているデザイナーズブランドでどれを知っているか?」と尋ねてみたところ、7人とも「どれも知らない」という答えが返ってきた。

専門学生といってもいろいろな人が存在するからその7人を持ってその世代の標準だと決めつけることはできないが、知名度はそれほど高くないという証拠の一つにはなるだろう。
なぜなら、その7人は海外のデザイナーズブランドや国内のアパレルブランドなら割合に知っていたからだ。

その原因はさまざまあるのだろうが、ファッションメディアの熱心な報道の割には、各ブランドの売上高が低すぎることも原因の一つとして挙げられるだろう。
それに関連するが、それらを仕入れる小売店が少なすぎるということもある。
実際に見る機会が少ないとブランド名は記憶されない。

ウェブショップはあるが、知名度が低いとそれほどの売上高は期待できない。
知名度の低いブランドをわざわざ検索してウェブ通販サイトを探そうという消費者はそんなに多くは存在しない。

実際に東京コレクション出展の独立系デザイナーズブランドで、ビジネスとして成り立っているのは上位10社にも満たないのではないか。
トップと目されているブランドでさえ、年間売上高は数億円レベルと言われている。

出展歴10年近い常連ブランドでも年間売上高が1億円前後あるかないか程度というのも珍しくない。

以前、常連ブランドでインターンをしたことがあり、現在時々生産関連の業務を請け負うことがあるという人の話を聞く機会があった。

その人が断続的に携わるブランドはそれこそ、出展歴は10年近い。
しかし、こと生産枚数となると、サンプル程度しかない。
なぜなら直営店とウェブショップ以外の卸先が数店しかないからだ。

これではまとまった生産ロットになるわけがない。

さらに付け加えるなら直営店とウェブショップもそれほどの売上高ではない。

となると、数店への卸売りということになると、1型あたりせいぜい10~15枚程度だろう。
最大でも3色・2サイズすべてがその店に入るとして、30枚だ。
しかし、卸売りというのは全型を引き取ってもらえるわけではないから、売れる品番とまったく売れない品番とに分かれる。
まったく売れない品番は直営店とウェブショップで消化するほかないが、一般のアパレルブランド店ほどの売上高はないだろうから、その2つ分の販路を合わせても1型10~20枚程度の生産ということになる。

となると、1型あたりの生産数量は最大でも50枚、不振品番なら10~20枚程度である。
100枚に到達する品番は皆無だと考えても差し支えないだろう。

生地は通常1反=50メートルである。
ロングコートとかワンピースとかツナギを除くとだいたいのアイテムを作るのに必要な生地の長さ(用尺)は2メートル~2メートル50センチなので、1反あたり20~25枚の衣料品が製作できるということになる。

10枚とか15枚では1反未満の生地しか消化できないということになる。

洋服の製造をする場合、生地の使用量が1反未満の場合、1メートルあたりの生地の値段はアップチャージが付いて高くなる。
当たり前である。5メートルだけ残されてもその5メートルは最早商品としては売れない。
それこそ生地の切売り店に二束三文で投げ売るしかない。

また縫製工場は、最小生産枚数が1型あたり50枚とか100枚と決められている。
それは別に縫製工場が意地悪をしているわけではなく、それを下回る枚数は生産効率が悪いためである。
それを下回る生産枚数の場合、アップチャージが付いてこれも縫製工賃は高くなる。

必然的に出来上がったアイテムは製造原価が高いので、店頭販売価格も高くならざるを得ない。

そして高い販売価格の商品は原則的に売れにくい。
価格が高くて売れないから、生産数量も伸びず製造原価も下がらない。悪循環スパイラルである。

その人が携わるブランドはキャリアが10年近いのに、反潰し(1反すべて使い切ること)さえできないのが常態だという。

外部から眺めただけの感想で申し訳ないが、おそらく今後もビジネスとして売上高を拡大することは難しいだろう。
処方箋は二つ。

1つは卸売り先を増やすこと
もう1つは直営店とウェブショップの売上高を増やすこと

この2つしかない。
それには営業力の強化が最優先だが、凄腕営業マンを招聘しようとすると多額のギャラが必要になる。
東京コレクションは1ステージにつき、最低でも1000万円の出費が必要と言われているから年2回だと2000万円は最低でも必要になる。
これを広告宣伝費・販促費として捉えると、費用対効果は良くない。出展し続けて売上高は横ばいか微減なのだから、出展をやめても良いのではないだろうか。
その浮いた費用で凄腕営業マンと契約した方が売上高は伸びるだろう。

売上高のことばかりでゲンナリする関係者も多いのではないかと思う。
筆者だって永遠持続する拡大再生産なんて不可能だと考えている。
毎年、売上高を伸張させる必要もないと考えているが、それでも必要最低限の売上高はビジネスとしてブランドを続けていく上では必要である。
いつまでもサンプル数程度の生産枚数で良いとは思えない。

ブランド開始から数年くらいは苦難の時期であるから、そういう状況もやむを得ないと思う。
逆にそういう苦労を知らずに成長できるブランドの方が稀だろう。

けれども開始から10年前後が経過して、知名度だけはそれなりにあるのに、実情がブランド開始当初と変化がなくおまけに生産のミニマムロットすらこなせないままだというなら、それは最早ビジネスではなく趣味の創作活動ではないだろうか。

筆者の古くからの知り合いには、東京コレクションに出展せず、反潰しができるデザイナーズブランドが複数ある。それらの方が利益を確保できているし、何よりも最低限のビジネスとして成り立っている。

そろそろ東京コレクション出展ブランドは「ビジネス」という側面を真剣に考え直さねばならないのではないか。

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ